35:ミス ページ35
「なぁ、A今日何回目?」
新人みたいなミスばっかりすんなよ、って京本が今日何度目か分からないため息を吐き出す。
休憩に入ってざわつくフロアの中で、そのため息がやけに鮮明に聞こえる。
やっと来た昼休憩に正直安堵した。それに気づいてまた自己嫌悪。
「ごめん」
「謝るくらいだったらちゃんとやって」
「…ごめん、」
ちょっとコンビニ行ってくるって京本はそう言うと席を立った。
空になったデスクを眺めながら、今度は私もため息をひとつ。
京本が言っていることはよく分かっている。
仕事に身が入っていないのは、自分でも自覚してる。
そして、その原因もよく分かってる。
「Aさん、なんかあった?」
「え?」
顔を上げれば前のデスクの阿部くんが首を傾げて心配そうにこちらを見ていた。
「んー、別に」
「そ?」
「…いや、ほんとはちょっとはあった」
「やっぱりね。京本はいつも以上にイライラしてるし、Aさんはいつも全然ミスしないのにミスばっだだし、それに、」
「それに?」
「なんかいつもと雰囲気違う」
「違うかなぁ?どこか変?」
別に昨日の今日だし、何も変わってないはず。髪型も服装もいつも通り。
仕事が出来なさすぎて終わってる、ってこと以外は。
「違くて。なんか、いつもよりキラキラしてる?綺麗?っていうか」
「…阿部くんってそういう冗談言う人だったっけ?」
「冗談でそんなこと言うタイプじゃないって知ってるでしょ」
阿部くんがはぁ、とため息をつく。
みんなしてそんなため息ばかりつかないで欲しい。この会社の人の幸せ逃げまくりだよ。
まぁ今日の京本のため息の大半は私のせいだけど。
そんな話をしていたら、京本が席に戻ってきた。
「なんの話してんの」
冷たくこちらに向けられる京本の視線。
手にはコンビニの袋が揺れている。
雑談してる暇があったらミスした仕事取り戻せよなんて言いたそうなその視線にちょっと怯む。
「阿部くんに口説かれ中?」
「ちょっと?!語弊がすごいな?!」
軽い冗談言ったつもりなのに阿部くんが予想以上に慌てるものだからこっちがびっくりする。
自分のデスクから滑り落ちたファイルを拾いながら、阿部くんが「やめてよ、」なんて困ったように言う。
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作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月15日 22時