33:触れたくて ページ33
「…ってちょっと調子乗りすぎだわ、俺」
松村さんはそう言って自虐的に笑いながら後ろ頭を掻いた。
「そろそろ帰ります、同僚さんにも悪いし」
松村さんはカバンを手に取ると玄関へと向かう。
その背中を追う。
「松村さん、」
靴を履く松村さんの背中に声をかける。
なんで、まだここにいて欲しいとか思うんだろう。
なんで、もっと触れていたいだなんて思うんだろう。
でも、そんなの言えるほどの関係ではないのは分かってる。
ただ、少し前に偶然出会って、たまたま話すようになって。ひょんなことで家に来ただけ。
それ以上でもそれ以下でもなんでもない。
伸ばしかけた手を引っ込めたら、出かけていた言葉も喉の奥のほうに消えてしまった。
「Aさん?」
松村さんが振り向いて私の顔を覗き込む。
真っ直ぐに向けられた視線と目が合うと、胸の奥の方に小さな痛み。
「またそんな顔すると、勘違いしちゃうでしょう?」
俺以外とすぐ調子乗っちゃうんだから、なんて笑う松村さんの言葉に期待したくなる。
「松村さん?」
「はい?」
「…連絡先、教えてください」
私の言葉に松村さんは一瞬目をまんまるくして。
そのあとで「連絡先、連絡先ね」って何な面白いのか分からないけど1人で呟いて笑い出す。
「QRコード出しますね」
ちょっと待って、って松村さんはそう言ってスマホの画面を操作し始める。
ゆるゆると画面の上を滑る松村さんの指先を眺める。
さっきまでその指先が私の頬に触れていたんだな、って考えたらちょっとだけ恥ずかしくなった。
やばい、熱い。
今、絶対顔赤いや、私。
「あれ?」
「どうしました?」
あれ?なんて言う松村さんの声に気付かれた?なんて一瞬ドキリとする。
伺うように松村さんの顔を見ると、松村さんは何か言いたげな視線をこちらに向ける。
.
944人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「SixTones」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月15日 22時