29:【不在着信】 ページ29
そんな2人の視線が絡み合う。
微妙に空いた2人の空間がもどかしい。
それを埋めるように、少しだけ互いに体を近づけて。
松村さんの綺麗な顔が、ゆっくりと近づく。
吐息が鼻に触れそうな距離。
もう少しでその唇に触れそう。
互いの持つ熱があっという間にすぐそこにまでやってくる。
あ、このまま、キスするんだ、私。
キスするまであと、もう少し。
…そう思った瞬間だった。
カバンの中でスマホが震える音が聞こてくる。
すぐに鳴り止むだろうと思っていたのに、それは長く鳴り響き、それが電話であることを示している。
「…出なくていいんですか?」
その音は当たり前だけど松村さんの耳にも届いていた。
近づいた距離は、またさっきまでの微妙な距離に戻っていく。
「…大丈夫です」
そう言ったのに、相変わらずスマホはヴー、ヴーヴーって鳴り続ける。
しばらくして鳴り止んだと思ったら、今度は短く震える音が何度か立て続けに聞こえてくる。
あまりにスマホが主張してくるから堪えきれず、松村さんが「出てあげてください」って笑う。
仕方なしにソファから立ち上がり、スマホをカバンから取り出す。
スマホの画面には【不在着信:京本大我】の表示が映し出されていた。
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作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月15日 22時