16:まさか ページ16
そのまま、何も言うことなく、私たちは駅へと戻った。
近くもなく遠くもない、なんとも言えない距離を維持して駅へと向かう。
「どっちですか、家」
「あっちです」
「俺はこっち」
松村さんはそう言う商店街のある通りのほうを指さした。
最寄駅は一緒でも私たちが住んでいるのは駅を挟んで反対側だった。
「そういえば決めたんですか、どうするか」
松村さんの手に握られたあの紙袋へ視線を向ける。
私の話を聞いてからどうするか決めるってそう言っていた。
けど、まだその答えを聞いてはいなかった。
「あぁ、そうでしたね」
松村さんもまた紙袋に視線を向ける。
ぐちゃぐちゃになった紙袋も今更自分に注目が向くだなんて思ってもみなかっただろう。
「すみません」
「え?」
「正直、話を聞いてもどうするべきなのか分からなかったです…結局」
松村さんはそう言うと申し訳なさそうに笑った。
「Aさんにとっては最悪の思い出が詰まった見たくもない物かもしれないけど。でも元彼からしたらAさんに向けて色んな想いを込めたものでしょ」
樹がどんな気持ちで私にあのブレスレットを渡したのかはわからないし、わかりたくもない。
どういう気持ちであれを選んで、あの時、腕につけた私にどういう気持ちで「やっぱり似合う」だなんて言ったんだろう。
あのときの少しだけ悲しそうに笑った樹の顔が浮かんで消えていく。
あんな樹の顔、付き合ってた3年の中で初めて見た。
「だから、やっぱりこれをどうするか決めるのはAさんがいいと思うんです」
そう言って、松村さんは私の手にその紙袋を無理矢理握り込ませた。
あのとき勢いで捨てて、もう見ることもないと思った樹からのプレゼントがまさか再び自分のところに戻ってくるなんて。
なんか変な感じ。
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作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月15日 22時