15:口実と下心 ページ15
「そろそろ行きますか」
そう言い出したのはどちらからだったか。
手元に残っていたウーロン茶を一気に流し込むと私たちは席を立った。
「北斗、今度友達めっちゃ連れて来ないと許さないからな?!」
「慎太郎、お前、俺に友達2人しかいないの知ってて言ってる?」
「あ、そうだったわ、ごめん」
「謝られたら逆に惨めだわ」
レジを叩く慎太郎と呼ばれる店員さんと松村さんの会話はどこまでもテンポがいい。
っていうか、松村さん友達2人しかいないの?イケメンなのになんで?
自分の分を払おうとしたら、断られて。
いやでも、って食い下がっても受け取ることは許してもらえなかった。
「ありがとうございましたー」
慎太郎さんのどこまでも明るい声に背中を押されて、私たちは店をあとにした。
外に出ると、ゆっくりと生暖かい空気がまとわりついてくる。
「松村さん、お金、」
「いいですよ、別に」
「やだ、初対面の人にそんな悪いことできない」
「悪いことって。たかがウーロン茶代280円ですよ?」
そう、結局私たちは他の品物をオーダーするわけでもなくウーロン茶だけを飲んで過ごした。
だから、慎太郎さんもあんなことを言ったんだろう。私が店の立場だったら、ふざけんなよ、って思うし、きっと慎太郎さんもそう思ってると思う。
「そんなの奢る奢らないのうちに入らないでしょ」
「…イケメンこわい」
「またそれ?」
松村さんがまた困ったように笑って、頭を掻く。
「見ず知らずの女の得にもならない話を280円使って聞いて。松村さんの目当てはなんですか?」
おかげで私はスッキリ出来たわけだけど。
松村さんにとって決して楽しい時間だったわけじゃないはずだ。
「目当て、ですか」
「だって、松村さんになんの得もないじゃないですか」
聖人君子じゃあるまいし、見ず知らずの愚痴を聞いて、あげく奢って(280円だけど)はいそれでじゃぁね、なんてそんな上手い話あるわけない。
「目当てってわけじゃないですけど、」
んーって顎に手を当てて何やら松村さんが考える。
「またAさんと会える口実を作りたいな、っていう下心はあります」
「…は?」
何言ってるんだ、この人。
冗談でも言ってるのかと思って、松村さんの顔を眺めるけど、松村さんはいたく真面目な顔をしていた。
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作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月15日 22時