14:飲み込まれる ページ14
あー、面白い。
思わず笑うと、松村さんがこちらをじっと視線を向けた。
「…あの、なにか?、」
「あ、いや。Aさん、笑ってるほうがいいな、って」
少しだけ照れたようにそう言う松村さんに、顔が熱くなるのが自分でもよく分かる。
…だってイケメンにそういうこと言われたら、誰だってそうなるじゃん。
「…口説かれてます?もしかして」
「弱ってるところにつけ込むほど、ズルくないですよ、俺」
誤魔化すために冗談で言ったのに、それすらスルリと交わされてしまってなんかちょっと恥ずかしい。
余計に顔が熱くなる。
いなくなりたい、この場から。今すぐに。
松村さんの顔を見ていられなくなって、下を向く。
ぎゅっと握ったスカートのシワが、今の私を表してるみたいだ。
「え、大丈夫ですか、Aさん?!」
テーブル越しに松村さんの気配が近づいてきたのがわかる。
またテーブルがガタンと音を立てて揺れた。
なかなか顔をあげない私に松村さんが「本当に大丈夫ですか?」なんて切なそうな声を上げるものだから、居た堪れなくなる。
「ごめんなさい、だいじょー、」
ぶ、って顔をあげたら、思った以上に近くに松村さんの顔があって。
目が合うと、お互いそのまま固まって時間が止まったみたいになる。
真っ直ぐ向けられたその瞳の中に私の姿が映っているのが見える。
「…松村さん、こわい、」
人を寄せ付けない雰囲気出してるくせに、なのにこんな風に寄り添って来て。
その優しさに飲み込まれていきそうな自分が怖い。
「え、?」
「イケメン怖い、食べられる」
「ちょっと待って、なんで?!」
飲み込まれないように、流されないように、わざとそんなことを言う私は松村さんの目にどう映っているのだろう。
きっと酷く滑稽だろうな。
まぁ、もう今日が終われば会うことなんてないからどうでもいいか。
「あはは、松村さん慌てすぎです」
「なぁ、もうほんと!なんなの?!」
傷ついているところにつけ込んでくれたらどんなに楽だろう。
でもきっと松村さんはそんなことする人じゃないだろう。
そんな空気を誤魔化すようにあはは、って笑う私に「もうAさんマジでわっかんねー」なんて頭を掻く松村さん。
なんか、ごめんね。
でも、そんな松村さんのおかげで、だいぶ心は楽になった気がした。
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作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月15日 22時