12:揺れる ページ12
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「っていうのが、その紙袋に纏わる話です」
ね、聞いて損したでしょ?と自虐的に笑ったら、目の前の松村さんは苦しそうな視線をこちらに向けた。
「…すみません、辛い話を聞いちゃって」
「いいんです、もうどうでも。松村さんも笑ってやってください」
誰かが笑ってくれれば、報われる気がした。
辛いね、大変だったね、って同情されるより「最低じゃん」「バカじゃんその男」って笑い飛ばして欲しかった。
そうじゃなきゃ惨めになっちゃうから。
「笑えないですよ、んなの」
「だって、」
少し長めの前髪から覗く松村さんの目が、私を真っ直ぐ捉えた。
「無理しなくていいんじゃないですか」
「…え、」
「辛かったら辛いって言えばいいし、苦しかったら苦しいって泣けばいいじゃないですか」
「…そんなの、できない、でしょ、」
声が揺れる。
樹との楽しかった思い出が一気に溢れ出す。
私の思い出の中にはずっと樹がいた。
ずっと、ずっと一緒にいるものだと思っていた。
でも、
そう思ってたのは私だけだったんだ。
1人でずっと浮かれて。
楽しかったね、って笑い合ってる間も裏切られ続けて。
バカみたいじゃん、そんなの。
気付いたら、涙が溢れ出して止まらなくなった。
泣く私の頭を松村さんは優しく撫でた。
初対面の相手の前でこんなに泣いて、私、何やってるんだろう。
…いや、初対面の相手だからこそ、こんなに泣けるのかな。
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作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月15日 22時