1:最低な金曜日 ページ1
波が箱から耐えられなくなって溢れ出すみたいに電車が到着した駅は、人でごった返していた。
「…最悪、」
人混みの中を掻き分けるように歩くけれどなかなか思うようには進めない。
そんな中で誰かに踏まれたつま先がジンジンと痛む。
謝りもしないどこぞのどいつに腹が立ったあとで、無性に虚しくなった。
今日はとことんついてない日だ。
というか、もうこれから一生、私のところには幸せなんてやってこないのかもしれない。
そう思ったら鼻の奥が少しだけツン、とした。
ようやく抜け出た人混み。
右手に持っていた小さな紙袋は、人混みのせいで不恰好に潰れていた。
本当ならその紙袋もぐちゃぐちゃにならないように大切にするべきなのだろうけど、生憎今の私にそんな気力もないし、これをどうにかしようという熱意もない。
駅を出てすぐのコンビニの前。
そこに設置されたゴミ箱に右手の小さな紙袋を勢いよく投げ入れた。
ゴミ箱に放り投げた瞬間、近くにいた男の人と目が合った。
帽子を被り、マスクもしてるから、表情は全然分からないはずなのにその人が驚いているのはわかった。
まぁ無理もないか。
いきなり、絶望した顔の女がすごい勢いでゴミ箱に紙袋を投げつけてくるんだもん。
ごめんなさいね、見ず知らずのあなた。
そう心の中でつぶやく。
届くはずなんてないけど。
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最低な金曜日だった。
あの瞬間は、何も思わなくて。
むしろ「あ、なんだ、簡単な話しじゃん?」なんてやけに俯瞰的に自分のことを見れたりして、案外私って人間として欠陥品だったのかもなんて思ったりした。
でも家に着いて、玄関のドアを閉めた瞬間、蛇口が壊れてしまったみたいに目からは止めどなく涙が流れ、口からは子どもみたいな嗚咽が漏れ出た。
金曜日でよかった、としばらくして落ち着くとボーッとする頭の中でそう思った。
土日は誰にも会わなきゃいいし、そしたら月曜日また普通の顔して日常を送ればいいんだもん。
一度泣いてしまえば、逆にスッキリしちゃってもうどうでもいいや、なんて思ってしまうくらいにはなっていた。
ほんと、私って単純だ。
「はぁーー」
ため息は幸せが逃げるよ、なんて誰かが言うけど、今の私のため息に逃げるような幸せなんてきっとないだろう。
振り返ってみればあっけなかったな、なんて。
こんな私を誰か笑ってくれたら楽になれるのに。
生憎私にはそんな人はいないからまた余計に虚しくて笑えてきた。
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作者名:もえぎ | 作成日時:2021年9月15日 22時