伝わらない思い ページ46
野坂「…はぁ」
ずっとAの部屋に居ては他の人に見つかりかねない為、野坂は速やかに部屋から出た。
幸い廊下には誰もおらず、見つかることはなかったが。
一旦自分の部屋に戻ろうと足を運ぶ。
その途中にある窓に、野坂はたまたま目を向けた。
野坂「っ…!」
見るんじゃなかった。
野坂の視界に飛び込んだのは、互いの息がかかるほどの距離で向き合うAと吹雪の姿。
手に持っていたタオルで優しくAの汗を拭き取ってあげている吹雪。
勿論Aは布越しとは言えど肌に触れられる度に頬をほんのり染めて、吹雪を見つめている。
野坂は思わず窓に近寄り、手を付けた。
野坂「…Aッ」
野坂自身、こんな光景をみるのは嫌でしょうがなかった。
Aが吹雪が好きだと言うことは本人に聞くあのときよりも、ずっと前から、野坂は感づいてた。
何年も前から、彼女を見てきたから。
Aは昔から格好よくて強くて優しい、王子様みたいな人が好きだった。
野坂と西蔭とAが三人で雷門と白恋の試合を観戦しに行った時だった。
不意に野坂の隣に座っていたAがぽつりと呟いた。
A「吹雪、士郎さん…」
そんなAの顔に目を向ければ、瞳を輝かせて、野坂の視線にすら気づかずに、試合が終わり退場するまでじっと吹雪を見つめていた。
その時野坂は、もしかしたら。と思った。
だがそれが確信に変わったのは野坂が日本に帰ってきたウズベキスタン戦での事。
Aだけが野坂が現れたことに気づかず、ぼーっと何かを見つめていた。
Aの視線を辿れば、そこには優しく微笑む吹雪がいた。
そんな彼を見つめていたAの顔をみて、野坂は驚いた。
今まで自分が見たことのない、言わば恋する乙女の顔そのものだった。
その瞬間、野坂は白恋の試合を見に行くんじゃなかったと今更ながら後悔した。
再び、Aと吹雪に目をむけた。
Aが転びそうになれば支える、しんどそうにしていればドリンクを渡す。
吹雪はよくAをみていて、気づかっている。
A本人は気づいてないが、吹雪はAに思いを寄せている。
二人が結ばれるのも、あとは時間の問題だろう。
もう自分に勝ち目は無い。
そう分かっていても、野坂はまだ幼馴染みである彼女を諦めきれない。
野坂「…Aが好きだ」
苦しさと悲さが混ざり合った表情で、胸元辺りをぎゅと掴み、今にも消えてしまいそうな声で呟いた。
窓越しからのAへの思いは伝わるはずもなく、ただ虚しく静かな廊下に響くだけだった。
338人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:きなこ x他1人 | 作成日時:2019年2月10日 0時