モノクロノイズ。２【ワートリ】

Episode091 ページ42

烏丸side



はあ、と目の前の先輩はため息をこぼす。ファーストフード店の四人席に二人で座って、空いた席にはお互いの荷物。俺はジュースを飲みながらその人物を見つめた。


「学校でもバレて……ほんとだるいんだけど」
「なんてったって表紙っすからね」


この人のため息の原因は、ボーダーの広報の仕事のせいだ。雑誌の表紙を飾ってしまって、学校でもざわついていた。


「俺のクラスでも、二年の亜桜さんじゃね？って話してましたよ」
「最悪」


俺もその表紙を見たことはあるが、あの写真の表情と今目の前にある表情はまるで別人、本当この人の営業スマイルは恐ろしいなと思う。世間の人間はあの笑顔に騙されるのかと思うと少し哀れだ。


「広報はもう懲り懲りだ……次は京介がやりなよ」
「俺には無理っすよ」


広報担当の隊員が正式に決まればいいのだが、そんな隊員はまだいない。そのうち上層部が決めるらしい。だから今は色々な隊員が代わる代わるやっているわけだ。


「先輩、顔で猫被ってたっすもんね」
「いやそんなこと言うなっての。ってか訊いてよ。前に、出水の後輩に猫被ってたのバレたことがあってさ」


ポテトを食べながら先輩が頬杖をついた。「何でバレたんすか？」と尋ねると、「出水と米屋と言い合いしたの見られた」と返ってくる。ああそりゃあバレるだろう。あの二人は先輩にとって親密度最高クラスのコンビだし、暴言祭りもいいところだ。


「萎えたって言われた」
「まああの人の良さそうなキャラが嘘でこっちが本当だったら萎えますよね」
「ひどくない？」


わざわざ落胆させるようなことをせず、初めから素で他人と接すればいいのに……まあできないからこんなことになっているのだろうが。


「てか、京介は自分で猫被んなって言ってきたよね」
「そうっすね」
「あれはでも私がランク戦で戦闘狂だったからか」


そう言って先輩がカラっと笑った。俺もあの時は見た目に似合わない戦りっぷりに驚いたが、こっちが本性かと安心した自分もいた。大抵の男は、柔らかくて女の子らしい偽物の先輩の方が好きだろう。けれど俺は、飾らない大雑把でさっぱりした性格の先輩の方が、こちらも気を遣わなくていいし楽だ。


「訓練生に容赦ない感じ、今考えたら先輩らしいっすよね」
「うるさいな誘ってきたのそっちでしょ！」


そこまで言って先輩があれ？と思い出したような顔をして、顔をしかめて首を傾げる。


「京介なんでランク戦誘ってきたの？」


そういえば初対面の相手にいきなり声をかけたのは不自然だったな、と俺も思い出した。

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