Episode075 ページ26
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その日は早めに家に帰った。身体的な疲れはないけれど、何となく気分が疲れて。ボブっと自分のベッドにダイブする。
〜♪〜♪〜♪
『なんだよ』
「出水いまどこ?」
『家だけど』
私は出水に電話をかけた。そこには少しだけ不機嫌そうな出水がいて、私はクッションを抱きしめながらスマホを耳に当てた。
「あの……さ。まあ見てたと思うけど私負けたんだよね」
『……おう』
格上の迅さん相手に完敗し、S級への道は絶たれた。納得もできている。
「この間あんなこと言っといて何だけど、そのS級上がんないから」
言っているうちに、段々恥ずかしくなってくる。散々抜かしておいて、結局負けてしまったのだから。
「だから……これからも、太刀川隊としてよろしく」
ぎゅっとクッションを握った。でもしばらく出水から何も返ってこなくて、私は「出水?」と彼の名前を呼ぶ。
『お前にS級なんか百年早ぇんだよ馬鹿』
「”な」
太刀川隊を抜けることになっても、S級に挑戦すると言ったあの日。出水の本音を訊いて生まれたのは罪悪感と、少しの嬉しい気持ち。出水が太刀川隊に私が必要だって、言ってくれている気がしたから。けれどやはり罪悪感も大きくて、あの日から出水とはあまり口を利いていなかった。だから、結局太刀川隊に残るのなら出水ときちんと話そうと思って、私は電話をかけたのだ。
『これからもおれらの足引っ張んねーようにするんだな』
「あんたはなんでそんな言い方しかできないかな!」
よかった、いつも通りの出水だ。少し久しぶりの、いつも通りの出水の声だ。
「……ま、今度ランク戦しよ」
『望むところだ』
出水の返事を訊いて、「じゃあ切るから」と私は一言告げて電話を切った。スマホを枕の横に置いて、ごろんと仰向けになりながらクッションを手放す。私は、これからもA級部隊太刀川隊の万能手だ。これからも太刀川隊の亜桜Aで居られるのだ。負けたのは悔しいはずなのに、そう思うとホッとしている自分がいて。こんなことを言っているようでは、黒トリガーを持つ資格はないなと呆れる。
「遠征くらい、S級じゃなくても行ける」
遠征は、ボーダーの精鋭を連れて行くらしい。S級なら行ける確率が上がるのは勿論だけれど、A級上位になればそれと同じくらい選ばれる確率がある。だから大丈夫、奈那を迎えに行ける。私は太刀川隊として、あいつを必ず向かえに行く。それでたくさん話すのだ、あいつのいない二年間の話を。
ごろんとまた寝返りをうった。
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亜桜(プロフ) - 深未さん» つけてないですよ〜! (2019年12月18日 8時) (レス) id: 69aa40c811 (このIDを非表示/違反報告)
深未 - 夢主ちゃんバックワームつけてないの?笑 (2019年12月18日 0時) (レス) id: cdb3fa391f (このIDを非表示/違反報告)
亜桜(プロフ) - 霧月さん» そんなに嬉しいお言葉を頂けてうれしいです(T^T)続編更新致しましたのでそちらもよろしくお願いします! (2018年10月8日 12時) (レス) id: 69aa40c811 (このIDを非表示/違反報告)
霧月(プロフ) - とても面白いです!!夢主ちゃんの性格も大好きです!!更新楽しみにしてます(≧∇≦*)大変だと思いますが、頑張ってください! (2018年10月8日 0時) (レス) id: 77a041f6c8 (このIDを非表示/違反報告)
亜桜(プロフ) - R.Oさん» ありがとうございます(T ^ T)がんばります!! (2018年8月22日 16時) (レス) id: 69aa40c811 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:亜桜 | 作成日時:2018年6月15日 17時