Episode069 ページ20
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「なんか嗅うと思った……」
私は一人で空を見上げて立ち尽くしていた。外は雨が降っていて、私は傘を持ってきていないわけだ。
「おいこら」
「ん?っうわ、」
不意に後ろから話しかけられて振り返ると、声の主が私のほうに何か投げてきたので、咄嗟に私はそれをキャッチする。
「ありがたく思えよ」
「渡し方……」
声の主は出水で、投げたものは折りたたみ傘。出水は傘をもう一本持っていて、どうやら折りたたみ傘を私に貸してくれるようだ。こいつ、ツンデレか?
「……なあ、あの話呑むわけ」
「?あーブラックトリガーのこと?」
結局一緒に基地を出て、私達は傘を並べて歩いた。お互いに傘で顔を隠して、淡々と言葉を送り合う。
「うん」
私がそう言うと、出水は黙ってしまった。何も言わないのかな、と私は出水の足元に目をやって、でもやっぱり声が来ないのでやめた。
「太刀川隊じゃなくなってもいいのかよ」
そしてしばらくして出水が口を開いて、私は視線を足元から引き上げた。本当は出水の顔を見ようとしたけど、傘が邪魔して見えなかった。
「良くないよ。ずっと太刀川隊でいたいし、これからも四人で戦いたい」
私はぽつぽつと言葉を零した。とても自分勝手なことを言っている気がして、足元に落ちたその言葉を、歩き進める自分の靴で踏み付けた。
「でも、それでも、奈那のこと助けたいから」
太刀川隊としてゆっくり遠征に選ばれる実力をつけていくことより、S級にあがって遠征に行ける実力を得ることの方が、より早くあいつを見つけてあげられると思って。
だから私は
「……今お前の傍に居るのは、おれらだろ」
ハッとして、私は傘ごと自分の顔を上げた。
「ずっとお前の傍に居るおれらより、お前のこと一人にした奈那って奴の方がいいのかよ!」
出水もバッと私の方を見て、さっきまで邪魔をしていた傘が視界から消えた。やっと、出水の顔が見えた。怒りと、寂しさが混ざった顔だった。
「ちがっ、出水、」
「チッ帰るわ」
そして出水は走り去ってしまった。そうか。出水は私に抜けてほしくないと思ってくれているのだ。ずっと太刀川隊でいてほしいと、そう思ってくれているのだ。なのに私は親友のことばかり考えて。いや、親友のことを考えてるフリをして、自分のことばかり考えていたのかもしれない。あいつを救う云々よりも、私がただあいつに会いたいだけなのかもしれない。
はあ……とため息をついた。
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亜桜(プロフ) - 深未さん» つけてないですよ〜! (2019年12月18日 8時) (レス) id: 69aa40c811 (このIDを非表示/違反報告)
深未 - 夢主ちゃんバックワームつけてないの?笑 (2019年12月18日 0時) (レス) id: cdb3fa391f (このIDを非表示/違反報告)
亜桜(プロフ) - 霧月さん» そんなに嬉しいお言葉を頂けてうれしいです(T^T)続編更新致しましたのでそちらもよろしくお願いします! (2018年10月8日 12時) (レス) id: 69aa40c811 (このIDを非表示/違反報告)
霧月(プロフ) - とても面白いです!!夢主ちゃんの性格も大好きです!!更新楽しみにしてます(≧∇≦*)大変だと思いますが、頑張ってください! (2018年10月8日 0時) (レス) id: 77a041f6c8 (このIDを非表示/違反報告)
亜桜(プロフ) - R.Oさん» ありがとうございます(T ^ T)がんばります!! (2018年8月22日 16時) (レス) id: 69aa40c811 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:亜桜 | 作成日時:2018年6月15日 17時