6 ページ7
次の日。館長の男が政府の命令で遠方へ出ると、図書館での生活は本格的に静かなものになった。唯一作之助がべらべらと喋るだけで、秋声も咎もAもこれといった時以外に話すことは特になかった。
「めっちゃ暇やねんけど」
「私たちが来た瞬間、有碍書の発生ががくりと下がったのだから仕方がないです」
「ええ、でもなんかすることはあるやろ。あそこにいる秋声も退屈そうにため息ついてんで」
「あれは…………そうですね、確かに暇かも知れませんが……仕事の判断はお父様がするので」
Aはそう言いながら帝國図書館の中庭にあたる場所に物干し竿を設置して、洗濯物をほし始めた。それでもずっと隣にいる作之助には呆れたが、その分奇妙なものなどに襲われる危険性が下がっていると思うと断ることも出来なかった。でも下着を干す時くらいは離れていてほしい。男全員の服を干し終えて残るは自分の服だけだ。
「あの、下着干したいんで先に戻っていただいてよろしいでしょうか」
「んーわかった、うん。じゃあな」
そして作之助は大きく手を振りながら図書館へ戻った。やっと下着が干せる。
Aが洗濯物を干している間、図書館の最奥部の倉庫では咎が一人本を相手に祈りを捧げていた。念仏のような訛りもあれば呪文のような不可解な発音もある。書物は徐々に発光していく。そして一通り祈りを終えると、書物が勝手に開き、眩い光を放った。
「…………コンニチハ。ワタシの名前は小泉八雲。ギリシャ生まれデスがいろいろあってここに来ました、デス」
強すぎる光がやっと収まったと思うと、そこには書物はなく、一人の青年が立っていた。
小泉八雲というその男はゆるりと微笑み、咎に一礼した。
12人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:逆さ天然水 | 作成日時:2017年7月23日 9時