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なんだかんだで布団に寝かせつけられたAであったが、人の布団で寝ること自体ないAにとってこのような事態はとても奇妙なものだった。
「しばらく待っとき、カレー運んでくるから!」
「なんか妙に張り切ってますね」
「けっけっけ、気のせいやて」
そうして高笑いしながら作之助は自室を出る。部屋に一人残されたAは失礼とは思いつつも部屋をぐるりと一周まわってみる。転生して間もないこともあってか部屋は日用品や備え付けの家具以外全く置いていない。これから働くにあたって彼らにも給与が与えられると思うので、またしばらくして訪れたら内装ががらっと変わったりしているのだろう。
「でも……それにしたってこの部屋にいるのは……」
お父様が混乱するに違いない。仕事の一環でやってきた過去に死んだ男の部屋に招かれるだなんて、一人娘を持つ父親からしたらどれほど恐ろしいことか。Aは作之助が食事を取りに行ってる間に食堂に戻ろうと考えるが、それだとかえって作之助に迷惑をかけてしまう。おとなしくここにいるのが正解か? いろいろと思案していると、部屋のドアがぱたりと開いて作之助が入ってきた。両手にはカレー。ドアは足で開けたのだろう。
「おっしょはんオッケーって言うてた、ついでにワシのぶんも持ってきたから一緒に食べよう!」
備え付けのテーブルにカレーを置いて、二人は向かい合わせに座る。謎の圧迫感。Aはそんな気を紛らわすためにカレーを口に含む。香ばしくとろりとした風味が口いっぱいに広がる。うん、美味しい。
続いて作之助がそれを食べる。泣きそうな顔をしながら笑顔になっている。
「わ、わし転生してよかった…………カレー……カレー食うてんねんで今……幸せやん……」
作家らしからぬ語彙力の消失具合にAはふふと笑う。そしてそんな自分の笑い声が部屋に響いたりするのを聞いてAは平和だな、と思うのであった。
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作者名:逆さ天然水 | 作成日時:2017年7月23日 9時