大丈夫なんかじゃない_9 ページ16
「そんな訳、ねぇ…だろうが」
松田は、自分の言葉を噛み締めるように腕に力をこめた。
「…大嫌い、なんだよ」
『…』
「この世の不幸を、全部背負ったみてぇに…。
んな風に…言ってんじゃねぇよ」
クッと奥歯を噛んだA。
それは、松田と初めて言葉を交わした日、
警察学校の旧講義棟の屋上で言われた言葉とよく似ていて。
大嫌い。
そう言われているのに、
きゅぅっとさらに強く抱きしめられて、
すぐ傍には、自身の肩に埋められた松田の苦しそうな顔があって。
胸が苦しくて、温かくて、辛くて。
Aは、身動きが取れない身体を小さく動かした。
「…んで、…何で、1人で抱えようとすんだよ。
何か出来るとか、…んなこと思ってねぇよ。
何も、出来ねぇのは…俺も、…諸伏や萩たちも…同じ、だろうがよ」
『...』
「何も、出来ねぇかもしれねぇ。
…でも、傍にいるくらいは、…出来んじゃねぇのかよ」
『…え』
「…勝手に、離れていこうと…すんじゃねぇよ」
松田は、全てを自分の身体に包み込むようにして、
Aをさらにギュッと強く抱きしめた。
首筋にかかる吐息がとても熱くて、
身体ごと大きく強く包まれる感覚と、
コート越しの松田の体温がとても温かくて、
その顔を彼の胸に埋め、ハラハラと涙を流し続けるA。
大嫌いだと、思った。
これ以上、関わって欲しくはないと。
勝手に頼っておいて、身勝手なことくらい分かってる。
優也を見つけてくれて、
止めてくれて、
これまでも、ずっと気にかけてくれていて。
それは、腫れ物に触るような態度じゃなくて、
斉木の頬を叩いたあの日も、1人にさせないといって傍にいてくれた。
4年近くも前の事件だ。
自分にとっては昨日のことのようだとしても、
自分への謂れのない言葉も、根も歯もない噂も、
それはインターネットという世界から完全に消えることはないとしても、
きっと、覚えている人間は少ないだろう。
それに、容疑者は逮捕されていて、
事件はもう、解決するはずなのだ。
なのに、
それでも、
迷惑をかけたくないと、
放っておいて欲しいと、
どこかでそう、思っていた。
でも、自身の身体を包む松田の腕を振り解くことは、
やっぱり、出来なかった。
その温度に寄りかかってしまいそうになる気持ちを、
消してしまうことはもう、出来なかった。
松田のコートからは、
ほんのり苦くて、
どこか乱暴で、
とても安心する、匂いがした。
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作者名：white12
| 作成日時：2023年2月7日 18時
