大丈夫なんかじゃない_8 ページ15
『…私は、優也のことを心配していたようで、何も…、分かっていなかったのかもしれません。
優也が、…ずっと思い詰めた表情をしていたのは、…気づいて、…た。
…精神科で最初に何度か診て貰っただけで、それから…は、…”大丈夫だから”って。
何も、言えなかったのは、…私のせいでもあったのかも、…しれません』
「…んなこと──」
『きっと、…もっとちゃんと、話すべきでした。
辛い..って。犯人のことが、許せない…って、出来るなら…殺してやりたいって』
Aは松田に包まれたままの手をさらに強く握り、それを小さく震わせた。
『…大丈夫…じゃないって。
大…丈夫なんかじゃ、ないって』
「…」
『これ以上…、苦しんでほしくなかった。
出来るなら、少しでも、少しだけでも穏やかに、…笑って、って…思ってました。
でも、そんな…こと、無理に…決まってます、…よね。
思い出させない…ように、する、だけじゃなくて、
…優也も、…大丈夫なんかじゃ、...ないからって、
…ちゃんと、話を…しなきゃ、いけなかったんです…よね』
その目から溢れる涙で、Aの両の頬にはいくつかの筋が出来ていて。
小さく首を振りながら、苦しそうにキュッと目を瞑るとその両の目からは大きな雫がポロリとこぼれ、
松田の手の甲を濡らした。
そして、ふっと目を開けて少し表情を緩めたA。
肩と手の震えは、止まっていた。
『結局、…勝手に、自分勝手に…心配していただけで、
私は、何も…、
あの日も、…あの日から、…何も、出来ないまま、…です』
「…桜庭」
『傍にいなきゃ、って…、思ってます。
大事な、本当に大事な、…弟だから。
でも、私じゃ、…何も──』
「桜庭!」
Aがか細い声で話す言葉は、
その身体ごと、乱暴に、松田のそれに包まれた。
「…そんなこと、あるはずねぇだろうが」
Aは、一瞬戸惑ったように目を見開いたものの、
その目から大粒の涙をポロポロと流し、そのまま脱力したように松田に抱きしめられていた。
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作者名:white12 | 作成日時:2023年2月7日 18時