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3度目の正直_4 ページ35

葵の話を遮って、木本が叫ぶ。

はぁ、はぁ、と、息を荒げているようだ。

(店長さんが優しく対応…?
とてもいいお店って…)

木本自身から話を聞くためだろうか。
葵の考えを計りかねつつも、神山は重要な会話を聞き漏らしまいと、
メモを手に真剣な表情を崩さずにいた。

『…木本さん、実は、少し話を聞いています。
あなた、あのお店で随分不当な対応を受けていた、ということはありませんか…?』

「な、なんだよ…」

『バックヤードで、あなたが店長から度々大声で怒鳴られていたと。
怒鳴り声の中、何かがぶつかるような大きな音を聞いた、という人もいました。』

目を見開きながら、こちらを睨みつける木本。
相変わらず息が上がっているようだ。

なにも答えない木本に、なおもゆっくり話し続ける葵。

『もしかして、あなたは、あのコンビニを、店長を、恨んでいたのではないですか…?』

木本は、自らの唇をぐっと噛みしめる。

『あなたが言っていた刑事から受けたという“暴言や暴行”、あなたにそれらを与えたのは、あの店長だったのではないですか…?』

「…!ち、違う!刑事から暴言を受けて自白を強要されたのは本当で…!」

噛み締めた唇を開き、そう訴える木本。
訴えは変わらないようだ。

『もちろん、コンビニ強盗事件を起こしたのがあなただったのかそうでなかったのか、
松田刑事が不当な取り調べの結果自白を強要したのか、
その点については、明確な証拠が得られているわけではありません。』

「だ、だから…早く釈放し…」

『ただ…
もしも、もしも、あなたがあの店で不当な扱いを受け、
暴行、暴言という被害を受けていたのであれば、貴方は、あのコンビニを、あの店長を訴えることが出来ます。』

木本は、葵の言葉にちいさく瞳を揺らす。

『もしも、そのような被害によって、貴方が恨みを抱き、もしも、その結果として、強盗に入ることであの店に、店長に、仕返しをしようと考えたとすれば…
それは、裁かれる上で考慮されるべき事項です。』

「ち、ちが…」

『犯罪を犯して良い理由は、この世には存在しません。
でも、裁かれる上では、なぜ、そのような状況に至ったのか。その経緯はきちんと明らかにされる必要が、あります。
そして、それは、私たち弁護士の責務です。

不当な扱いを受けて良い人間は…、
不当な刑罰を課されて良い人間は、存在しません。』

木本の目から、細い雫が溢れる。

「…あ、あいつのせいなんだ…
あ、あいつ、…が…」

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作者名:white12 | 作成日時:2019年7月1日 21時

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