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「あとは私に任せて、店長には具合が悪いからって伝えておくわ」
そう可愛らしいウィンクと、力強いガッツポーズで蜜璃ちゃんは私のことを送り出してくれた。どんな時も味方でいてくれた蜜璃ちゃんを思うと、心の奥底から込み上げてくるものに、鼻の奥がツンとなった。もう逃げない、絶対に。そう思ってもバクバクと激しく脈打つ鼓動と、自然と早まる呼吸が不安でいっぱいの私を煽り続けた。
「…おつかれェ」
「ありがとう、ございます」
お店の外壁に寄っ掛かていた先輩は、私を見て小さく笑った。先輩の顔を見るのは久しぶりで、目が合うだけで火照る。どんどんと、その速度を上げていく鼓動に吐き気さえ覚えた。先輩は徐に、あの夜と同じように私の手を引いて、駅までの道のりを進んだ。
会話など勿論なく寒空の下、車の騒音が響くだけだ。私の右手に先輩の左手が絡められているけれど、私はそれを返すことがどうしても出来なかった。変な意地を張っているのか、怖いからか、その両者、もしくはどちらも違うのか、とにかく私は出来なかった。
電車に乗り込み最寄りの駅に到着した。先輩は公園に行こうと、再度私の手を引いた。街灯の下のベンチに吸い込まれるように私たちは座った。先輩は1度立ち上がり、近くの自動販売機へ向かった。彼の手にはミルクティーの缶が2つあった。
…甘くて、温かいミルクティー。
それらは、身体の、心の深いところに染み込んで、不安でいっぱいの固まった心胸を柔らかく解きほぐしてくれるかのようだった。
「…木下、ごめん。」
先輩はベンチに座る私の視線に合わせるため、蹲み込んで私の顔を見た。眉を下げて思い詰めたような悲しげな顔をしていた。先輩は震える骨張った手で、私の頬にまるで割れ物を扱うかのように丁寧に、優しく触れた。冷たい指先なのに、触れられたそこから熱を帯びていくのがわかった。
「…俺、だっせェよな、…ごめん。」
呆れたように自分自身に笑う先輩は、私の手を取った。そして深呼吸を1度して、私の目を見た。
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三月の専属ストーカーなつめみく - 宇随さんの小説でホイップ増量でェってセリフがリンクになってたから飛んでみたらいきなりさねみんがホイップ増量でェとか言ってて吹いた。 (10月25日 16時) (レス) id: ba14ff85c6 (このIDを非表示/違反報告)
蓮(プロフ) - にじさん» にじさん初めまして、コメントありがとうございます!実弥さんらしさがなかったら…と不安でしたし、皆さんが想像しやすいように描写の方も力を入れているのでそう言って頂けて嬉しいです、ありがとうございます( ; ; )今後も頑張りますのでよろしくお願いします…! (2021年2月21日 23時) (レス) id: e728655408 (このIDを非表示/違反報告)
にじ(プロフ) - コメント失礼します。蓮さんが書く実弥さんとても好きです…。こんな恋がしてみたい!ときゅんきゅんしてます…!描写も一つ一つが丁寧でとっても素敵で…これからもコッソリと更新を楽しみにさせて頂きますね。 (2021年2月21日 17時) (レス) id: 7dcf5a18d1 (このIDを非表示/違反報告)
蓮(プロフ) - パチ麻呂さん» パチ麻呂さん初めまして、コメントありがとうございます!実弥さんとの恋を楽しんで頂いてるみたいで私も嬉しい限りです!労いのお言葉までありがとうございます…!甘くしていけるよう努力してまいりますので今後もお付き合い頂ければ幸いです。よろしくお願いします! (2021年2月19日 22時) (レス) id: e728655408 (このIDを非表示/違反報告)
パチ麻呂(プロフ) - コメント失礼します。文章1つ1つが可愛らしいというか、恋してる気持ちになれて堪りません( ; ; )スマホ片手にジタバタしちゃうくらいキュンキュンします。これからも楽しみにしています。お体に気をつけて蓮さんのペースで更新頑張ってください! (2021年2月19日 5時) (レス) id: 1f374d88ae (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蓮 | 作成日時:2021年1月26日 21時