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時計回りで進む私たちは、水族館の中央部であり1番の売りである全長20mにも及ぶ大水槽の前に来た。
そこには大小様々で色とりどりな魚群や、優雅にのうのうと水中を進むウミガメ、ひらひらとまるでレースが舞うように悠々と泳ぐエイがいたりと、人工的に作られた世界といえど
「すげェな」と頭上にまで続く大水槽を見ようと頭を上げる先輩の喉元は無防備に晒されて、そこからぷくりと浮き出る喉仏が、あまりにも優艶で見ていられない程だった。すぐさま大水槽に視線を移せば、ばちりと目があったのは鯵の群れだった。
「…美味しそう」
「は?」
…しまった、と思うも時すでに遅し、私の右隣の先輩の表情というのは例え用のないほどに引き攣り、何やら言葉を選んでいるように見えた。食い意地の張った女だとそう思われても致し方ないことだが、どう誤魔化そうと考えていれば「まァ、確かに」とクスッと笑い声が聞こえた。
「アジフライとかにしたら美味そう、だなァ」
そう言う先輩は、無邪気にニカッと笑った。こんな笑顔を見るのは初めてである私は、想像を超えて返ってきた言葉も相まって言葉を失ったが、「あのでけェのは煮付けがいいなァ」と呟く先輩を見ていれば、だらしなく緩んでしまう頬もどうでも良く思えてしまった。
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一通り見終えた私たちは、出口ゲートに隣接されているお土産ショップに立ち寄った。水族館の魚たちをモチーフにしたお菓子や、文房具、海の哺乳類のぬいぐるみなどが陳列されていた。
「…かわいい」
陳列されたぬいぐるみの1つに目が止まり私はそれを手に取った。そのぬいぐるみというのはピンク色を基調としたイルカだった。つぶらな瞳に、手触りの良いふわふわな質感、大きすぎないサイズ感も抱き締めるのに丁度いい。「かわいいな」と、背後から声が聞こえたと思えば、先輩の腕が伸びてイルカのぬいぐるみもひょいっと持っていた。そしてそのまま会計を済ませて先輩が帰って来た。
「ん」と1度私の前に出したが、直前で止めて自分の右手にイルカの入った袋を持ち、空いてる左手で私の右手を取った。
「飯、行くか」
「…ありがとうございます」
横目で私を見た先輩は、少し微笑んで私の右手を握る力を強くした。
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三月の専属ストーカーなつめみく - 宇随さんの小説でホイップ増量でェってセリフがリンクになってたから飛んでみたらいきなりさねみんがホイップ増量でェとか言ってて吹いた。 (10月25日 16時) (レス) id: ba14ff85c6 (このIDを非表示/違反報告)
蓮(プロフ) - にじさん» にじさん初めまして、コメントありがとうございます!実弥さんらしさがなかったら…と不安でしたし、皆さんが想像しやすいように描写の方も力を入れているのでそう言って頂けて嬉しいです、ありがとうございます( ; ; )今後も頑張りますのでよろしくお願いします…! (2021年2月21日 23時) (レス) id: e728655408 (このIDを非表示/違反報告)
にじ(プロフ) - コメント失礼します。蓮さんが書く実弥さんとても好きです…。こんな恋がしてみたい!ときゅんきゅんしてます…!描写も一つ一つが丁寧でとっても素敵で…これからもコッソリと更新を楽しみにさせて頂きますね。 (2021年2月21日 17時) (レス) id: 7dcf5a18d1 (このIDを非表示/違反報告)
蓮(プロフ) - パチ麻呂さん» パチ麻呂さん初めまして、コメントありがとうございます!実弥さんとの恋を楽しんで頂いてるみたいで私も嬉しい限りです!労いのお言葉までありがとうございます…!甘くしていけるよう努力してまいりますので今後もお付き合い頂ければ幸いです。よろしくお願いします! (2021年2月19日 22時) (レス) id: e728655408 (このIDを非表示/違反報告)
パチ麻呂(プロフ) - コメント失礼します。文章1つ1つが可愛らしいというか、恋してる気持ちになれて堪りません( ; ; )スマホ片手にジタバタしちゃうくらいキュンキュンします。これからも楽しみにしています。お体に気をつけて蓮さんのペースで更新頑張ってください! (2021年2月19日 5時) (レス) id: 1f374d88ae (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蓮 | 作成日時:2021年1月26日 21時