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「今日はここまで、おつかれさまでした」
先生の声を皮切りにざわざわと少しずつ大きくなっていく雑音。バイトだとか、何か食べていこうだとか、いろんな話し声が聞こえて来る。12月の半ばともなれば、4時半を過ぎた頃にはもう当たりは薄暗い。バイトだと言う友達を見送りながら、リュックにパソコンやら授業スライドのプリントやらを仕舞いながら、ふと頭を過るのはやっぱり不死川先輩のこと。
「……もう十分だ、ありがとなァ。」
あの後、彼とはあまり会えていない。木曜日に彼がバイト先に来るぐらい。校内ですれ違うと変わらず声をかけてくれるが、忙しいのかそもそも校内で見かけることも少ない。好きだから、会いたいと思うのは、寂しいと思うのは普通だと思う。でもだからと言って、好きだと自覚したからと言って、すぐに行動に移せないのが私だ。
…勇気が出ない。せめて彼が同じ学年だったら、もし私が人並み以上の愛想と会話力があったら、そうすれば少しは近くにいれたかもしれないのに。たられば話だけはぽんぽんと浮かんでくるのに、何もできない自分が悔しくて惨めったらしい。
重っ、とリュックを背負い講義室を後にした頃にはもう外は真っ暗だった。ご飯どうしよう、納豆ご飯でいいかな、めんどくさいし。自分だけとなると食事も粗末になってしまいがちであるが、一人暮らしなんてそういうものじゃないかと思う。
マフラーに思わず顔を埋めるほど今日は寒くて、はぁ、と吐く息が白く染まる。
……先輩は授業中だろうか。
ふとスマホの画面を見るが誰からも連絡は来ていない。彼と連絡を取り合うってこともまずなくて、この間、鍵が無事に見つかったということをわざわざ連絡してくれたぐらい。11月29日。日付が変わらないトーク画面を何度も見ては、ため息をつくというのも今では恒例だった。
ポケットにスマホを突っ込んで、歩き始めれば後ろに持っていかれる自分の身体と右手首と。咄嗟に振り向けば、目を疑う人物で。でもずっと会いたいと思っていた人。
「……せん、ぱい。」
「今日、このあと空いてるかァ?」
慌てた様子で軽く息を切らしている彼。微かに私の腕を掴む彼の手が震えている気がした。
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三月の専属ストーカーなつめみく - 宇随さんの小説でホイップ増量でェってセリフがリンクになってたから飛んでみたらいきなりさねみんがホイップ増量でェとか言ってて吹いた。 (10月25日 16時) (レス) id: ba14ff85c6 (このIDを非表示/違反報告)
蓮(プロフ) - にじさん» にじさん初めまして、コメントありがとうございます!実弥さんらしさがなかったら…と不安でしたし、皆さんが想像しやすいように描写の方も力を入れているのでそう言って頂けて嬉しいです、ありがとうございます( ; ; )今後も頑張りますのでよろしくお願いします…! (2021年2月21日 23時) (レス) id: e728655408 (このIDを非表示/違反報告)
にじ(プロフ) - コメント失礼します。蓮さんが書く実弥さんとても好きです…。こんな恋がしてみたい!ときゅんきゅんしてます…!描写も一つ一つが丁寧でとっても素敵で…これからもコッソリと更新を楽しみにさせて頂きますね。 (2021年2月21日 17時) (レス) id: 7dcf5a18d1 (このIDを非表示/違反報告)
蓮(プロフ) - パチ麻呂さん» パチ麻呂さん初めまして、コメントありがとうございます!実弥さんとの恋を楽しんで頂いてるみたいで私も嬉しい限りです!労いのお言葉までありがとうございます…!甘くしていけるよう努力してまいりますので今後もお付き合い頂ければ幸いです。よろしくお願いします! (2021年2月19日 22時) (レス) id: e728655408 (このIDを非表示/違反報告)
パチ麻呂(プロフ) - コメント失礼します。文章1つ1つが可愛らしいというか、恋してる気持ちになれて堪りません( ; ; )スマホ片手にジタバタしちゃうくらいキュンキュンします。これからも楽しみにしています。お体に気をつけて蓮さんのペースで更新頑張ってください! (2021年2月19日 5時) (レス) id: 1f374d88ae (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蓮 | 作成日時:2021年1月26日 21時