ホイップ増量で。【不死川実弥】

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カランコロン、という音に反応していらっしゃいませという声が響く。のんびりとした曲が店内で控えめに流れている。

ドリンク片手に勉強している学生や、パソコンと睨めっこしているOL、世間話が止まらないマダムたち。

いつもと変わらない店内を眺めながら、カップを磨く私もいつもと変わらず、早く終わらないかな、なんて考える。


…大学進学を機に、住み慣れた実家を離れ一人暮らしを始めた。バイト先であるこのカフェは、今年の3月から働き始めた。

なのに今はもう10月。時間が進むのは本当に早い、大学生になってもう7ヶ月も過ぎたんだ。

まあ、だからといって特別何かがあるわけではない。周りは彼氏がいたり、と楽しんでるみたいだけど、私は好きな人すらいない。

友達の惚気話を聞いていると、たまにいいなぁ、って思うこともあるけど、今は別にめちゃくちゃほしいとかっていうわけじゃない。

女同士も悪くないっていうか、まあ、そんなこんなで平凡な日常を少々退屈しながら過ごしているわけだ。



「今日は暇ね」
「そうだね」



コソッと私に話しかけてきたのは、同い年でバイト仲間の甘露寺蜜璃。大学は違うけどバイトを通じて仲良くなって、今では定期的に遊んだりしてる仲。

そして蜜璃ちゃんはとにかく可愛い。あ、そうそう、よく惚気話をするのは蜜璃ちゃん。年上の彼氏らしくて、なんでも蛇を飼っているそう。




「こんなに暇だと眠くなっちゃうね」
「そうね、店長いなかったら私寝ちゃってるわ」




そういう蜜璃ちゃんはタイミング良く欠伸を零して、顔を赤くしていた。かわいいなあ。


現在平日、木曜日の夜19時の少し前、世の皆様は大体明日も仕事や学校というわけで、自然とお客さんは少ないのだ。


…あ、でも今日は木曜日だ。


そう思った途端、カランコロン、と入口の扉から音がなる。そして、ああ、やっぱりと私は思った。



「いらっしゃいませ」



お決まりですか、と決まり文句を言えば目の前の彼はいつものメニューを口にした。



「…ミルクティーのホットのMサイズで」



あとは、と口にした彼。銀髪で鼻の所に大きな傷痕がある。目は吊り上がっていてどこか素っ気ない口調。歳はたぶん同じぐらいか、少し上ぐらい。

ちょっと強面な彼は、少し赤い頬でいつも言う事がある。





「…ホイップ増量でェ。」





…人を見かけで判断してはいけないというのはこのことかと私は学んだ今日この頃だ。




＿＿＿＿＿ホイップ増量で。

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