【はたらく細胞】Eccentrics (ページ25)

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Twenty-three ページ25

私がなんとかしないと、せめて2人の喧嘩を止めなくちゃ｡
Aはこの状況下で謎の使命感を抱いていた｡
というのも、以前酸素を運びにきた赤血球の話を聞いたことが原因だ｡
呼吸を乱しながら配達してくれた赤血球に事情を聞くと、変な人がいたから逃げてきたと言う｡
最初は笑っていられたものの、その人物の特徴を聞いた途端そうもいかなくなった｡
黒いシャツ｡
グレーのベスト｡
紫のネクタイ｡
それらを着用した黒髪の男性が壁に頭をぶつけながら叫んでいた｡
これに整っている顔、という要素が加われば100%合致しただろうが、生憎その男性の顔まで見る余裕はなかったらしい｡
でももう十分だった｡確信するに足りる証言｡
その男性は記憶細胞だ｡
さらに記憶細胞の近くには1組の男女もいたそうだ｡
Aは思った｡
まさにその時と今の状況が恐ろしい程までにぴったりだと｡
これで万が一2人が喧嘩に記憶細胞を巻き込んだらその時の再現映像を見ることになってしまう｡
意を決してAは2人に声をかけた｡
「あのっ! 」
マスト細胞とB細胞がAを見る｡注目を集めるにしては声が大きすぎた｡
Aは射抜くような鋭い視線に若干圧されつつ、言葉を紡いだ｡
「あの、2人共、喧嘩は止めませんか?お仕事の関係上、私があんまりとやかく言っていいとは思わないんですけど｡確かにヒスタミンにはちょっと困ることもありますけど、ちゃんとアナウンス聞いてれば避けられますし｡あと、あいじーいー?っていうのも抗原を倒すために使ってるんですよね?なら使いすぎちゃっても仕方ないんじゃないかなって」
Aは言いたいことをうまく言えなくて頭をかきむしりたくなったが、一生懸命次の言葉を探す｡
記憶細胞に話してもらった2人についてのことを思い出しながら｡
「トラブルが起きて揉めちゃうこともあると思います｡でもそれってB細胞さんやマスト細胞さんがちゃんとお仕事頑張っているからですよね｡だからその、えっと……とにかく喧嘩はおしまいにしませんか? 」
こんなぐちゃぐちゃな説得でとても喧嘩をやめてくれるようには思えない｡
しかしAにはこれしか言うことができなかった｡
しばし固まっていたB細胞とマスト細胞であったが、先に動いたのはマスト細胞の方だった｡
近づいてくるマスト細胞に、Aは怒らせたかもしれないという考えがよぎる｡
ヌッと伸ばされた両手にAは咄嗟に目をつぶり、何かしらのアクションを待った｡
だが衝撃が訪れることはなく、むしろAは温かく包み込まれた｡