Seventeen ページ18
「記憶さんと、2人で、お散歩? 」
Aが記憶細胞が言ったことを繰り返す｡記憶細胞は何も言わずに頷いた｡
記憶細胞はこの時初めて断られるかもしれないという考えが頭をよぎった｡
断ってくれてもかまわないとは言ったものの、拒否されるかもしれないという未来は彼の頭になかったのだ｡
言わない方がよかったのではないか｡
そう思って悔やんでももう遅い｡一度言ってしまった言葉は取り消すことができない｡
Aはまだ何も言わない｡
記憶細胞は早くしてくれという気持ちが喉元までせりあがってきていた｡
「記憶さん」
「は、はいっ! 」
記憶細胞は何故か敬語になってしまった｡
次の言葉をまだかまだかと待つ｡
「ごめんなさい｡無理です」
記憶細胞はひどくショックを受けた｡
だがそれを悟られぬように必死に取り繕った｡
「そうだよな｡俺こそごめん、こんなこと言って｡俺と散歩なんか行きたくないに決まってるよ｡さっきのは忘れてくれ」
早口で言った記憶細胞を見て、Aは耐えきれずに笑い出してしまった｡
「ごめんなさい、記憶さん｡ほんの出来心だったんです」
それでもAは笑いが止まらない｡
記憶細胞は何がなんだか分からなかったが、自分が馬鹿にされていることはしっかりと理解できた｡
「はー、すみませんでした｡この前記憶さんの前で泣いちゃって恥ずかしかったから、ちょっとした仕返しのつもりだったんです｡記憶さんの慌てる姿が見られて満足しました! 」
記憶細胞はAが涙を流す姿を思い出して、どきっとしてしまった｡
どうしてそうなるか彼には見当もつかない｡
Aはそんな記憶細胞のことなど露知らず、話を続けた｡
「さっきのは嘘です｡本当にごめんなさい」
「それじゃあ、Aは……」
「はい｡記憶さんとお散歩したいです」
にこっと笑って記憶細胞の提案をAは承諾した｡
記憶細胞は頭の中でハイテンションでサンバを踊っていた｡それほどまでに喜んでいた｡
「じゃあ、次回にでも」
「はい｡楽しみにしてます」
Aはとても嬉しそうだった｡
少なからず記憶細胞にはそう見えた｡
2人は仕事に戻るため、互いに背中を向けて歩き出す｡
記憶細胞はスキップでもしてみたくなった｡実際にはしないけど｡
記憶細胞は気づいていなかった｡
A以外の者を散歩に誘おうとは思わないこと｡
OKがもらえてこんなに喜ぶ相手はAだけだということ｡
約束を交わしてここまで舞い上がるのは相手がAであるからということ｡
彼が自分の気持ちを自覚するのは、ずっとずっと先だろう｡
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作者名：futureblue�鏡� | 作者ホームページ：http:/
作成日時：2019年3月8日 17時
