Ten ページ11
今日も記憶細胞と一般細胞のAは楽しく喋っていた｡
命名した張本人である記憶細胞はあれ以降何度かAを君と呼び間違えた｡
その度にAは「私は君じゃなくてAですよ、記憶さん! 」と怒ったような素振りを見せた｡あまり怖くはなかったが｡
そのかいあってか、今では記憶細胞がAの名前を間違えることはなくなった｡
「そういえば記憶さんのお仕事ってどんな感じなんですか?ちゃんと聞いたことなかったと思うんですけど」
「あれ、話してなかったっけ? 」
コクンと頷くAを見て、記憶細胞は頭をかく｡
最近物忘れが酷くなった気がするなあ……記憶細胞なのに｡
記憶細胞は自分に対してため息をついた｡
「俺の仕事は抗原の記憶だよ」
「名前のまんまですね」
「いや、まあ、うん｡抗原の記録をして、いざって時にすぐ抗体を作れるように備えてるんだ」
「抗体? 」
Aは聞き慣れない単語を繰り返した｡
時々記憶細胞は思う｡
Aはしっかりとしている割に、この世界のことをよく知らない｡
「抗体は抗原をやっつけるものをいうんだ｡B細胞のことは知ってる? 」
「記憶さんを引きずってた作業着の人ですよね」
「そうそう｡彼、大きな水鉄砲みたいなの持ってたでしょ、あれが抗体」
Aは目をつぶって記憶をかき集めた｡
思い出せたらしく、あーっ!と嬉しそうに声を上げる｡
「あれが抗体なんだ!初めて見た時、何に使うのかなって気になってて」
1個賢くなりました、とAは楽しそうに笑う｡
記憶細胞はそれを見てドクンと胸が高鳴ったような気がした｡
だが気のせいだと思い、知らないふりをした｡
「Aの仕事は細胞のコピーだよな? 」
「そうですよ｡今、分裂装置にコピーがいるんですけど、よかったら見ます? 」
「いいのか? 」
「もちろん」
Aは閉めていた窓をガラガラと横へずらす｡
よく見えなかったため、記憶細胞はベランダに手をついてAの部屋を覗き込んだ｡
あれ、と言いかけたが、記憶細胞は口を開かなかった｡
分裂装置の中にはAにどこか似ているようなあまり似ていないような、男性型の細胞がいたのだ｡
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作者名：futureblue�鏡� | 作者ホームページ：http:/
作成日時：2019年3月8日 17時
