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辺りは真っ赤に染っていて、噎せ返るような血の匂い。
私の目の前には、私を庇うように倒れている父と母。
「やだっ、なんでっ、お父さん……お母さん……!やだぁっ!」
ガバッと起き上がれば、そこにさっきまで見ていた景色はない。
夢だ。
昔の、夢。
はぁっ、はぁっと肩で息をして肺に酸素を送り込む。
至る所から汗が吹き出していて全身ビショビショだった。
あぁ、最悪だ。
このまま眠れるわけもなく、私は縁側で外の空気をあびる。
私の両親は鬼に喰われて死んだ。
私が14の時だった。
それから私は鬼殺の剣士を志したけれど、才能がなかった私にはいくら鍛錬を積んでも呼吸が使えるようにはならなかったんだ。
私は剣士になることを諦めた。
それでもどうにか鬼殺隊の役に立ちたくて隠になったんだよね。
あーあ、嫌な夢見ちゃったな……。
「……何してる」
ぼーっと庭を見ていれば、隣からもう聞き慣れてしまった声が。
私よりも低くて、凪いだ水面のように落ち着いた声。
声の主はすっと静かに私の隣に腰を下ろした。
『おかえりなさい、冨岡さん。』
「あぁ、ただいま。」
それだけ話して、また静かな空気が2人を包む。
この人の隣にいると、荒んで鋭くなった心がゆっくりゆっくりと解けていく。
不思議と心地がいい。
「眠れないのか。」
『…はい。少し、昔の夢を見てしまって。』
冨岡さんはそうか、と呟くと立ち上がってどこかへ行ってしまった。
任務帰りで汗もかいているだろうし、湯浴びだろうか。
それとももう疲れて寝床に入ったか。
少しだけ寂しく感じてしまったけれど、私はまだあの布団に入る気にはならなくて、さっきと同じようにぼーっと庭を眺めた。
暫くすると、コトっと盃が隣に置かれる。
『冨岡さん…これは…………』
「酒だ。今日は月が綺麗だからな。」
冨岡さんはそれだけ言うと自分の盃にお酒を注いで飲み始めた。
これはきっと、冨岡さんの気遣いだ。
眠れない私を1人にしない為に、理由をつけて隣にいてくれる。
本当にこの人は、どこまでも優しい人。
『冨岡さん』
「なんだ」
『……昔話を、してもいいですか。』
あんなに苦しかった心が、この人の優しさ1つでこんなにも穏やかになる。
今なら、苦しまずに話せると思った。
「………好きにしろ」
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きよりん(プロフ) - わらび餅。さん» 飲み会(笑)いえいえ、指摘なんて失礼しました。 (2020年7月8日 10時) (レス) id: 599608a929 (このIDを非表示/違反報告)
わらび餅。(プロフ) - 義勇大好きな女さん» わ〜!そんな風に言っていただけて嬉しいです!お読みいただきありがとうございます〜!! (2020年7月8日 6時) (レス) id: b794bc2212 (このIDを非表示/違反報告)
義勇大好きな女 - 話終わったら、目から水が、、、!? (2020年7月7日 22時) (レス) id: 8ebef6a95a (このIDを非表示/違反報告)
わらび餅。(プロフ) - きよりんさん» そうです、軟骨になってますね……笑ご指摘ありがとうございます、直しておきます……軟骨と包帯って今から飲み会でもやんのか?って感じですねすいません……笑 (2020年7月7日 5時) (レス) id: b794bc2212 (このIDを非表示/違反報告)
きよりん(プロフ) - 31話と32話に軟骨とありますが軟膏の事ですか? (2020年7月6日 23時) (レス) id: 599608a929 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:わらび餅。 | 作成日時:2020年5月22日 11時