彼らとの毎日５日目 【短編集】【Fischer's】

☆体育館 さん【Silk】 ページ12

それは、定期考査前だった。

たまたま、考査の一週間前で、朝練が出来ないのを忘れて、学校に早く来てしまった。

体育館が空いてないんじゃ、どうしようもない。


仕方ないから、予習でもするか。


と、教室に向かっている時。



通り過ぎようとした教室に、1人の女子の後姿。



さらさらとシャープペンシルを動かす。

その音だけが、教室に響いて、なんだか心地よい。


ノートを覗き込むために俯かれたその横顔は、横髪が邪魔して見えない。


どうしてか、分からないけれど。


俺はそこに、足を踏み入れていた。


そしたら、その音に気がついた彼女は、

驚いたのか、ばっと振り返って。


その、瞳がまん丸になる。


俺達の間に、音が、一瞬、消えた。


いたたまれなくって、

よぉ。といつもの調子で言って、手を挙げてみる。


彼女は、ちょこっとだけ会釈してから、

また、机に向かい始めた。


だけど、

なんだか、このままじゃ勿体無いような気がして、


｢何やってんの？｣


と、その隣の席に座ってみる。

そしたら、また、まん丸になった瞳が、こっちを見て、


｢す…数学。｣


遠慮がちに言う。


｢めっちゃ朝早くない？いっつもこの時間？｣


笑いながら尋ねると、

彼女は、躊躇いながらも、頷いた。



そしたら、ぱっと彼女の机の端にかかっている、コンビニの袋が目に入って、


彼女が、あっ。と小さく声を漏らすのも、聞こえた。



そこには、あの、いつもの、スポーツドリンク。



俺の心臓の辺りが、ぶわっと一気に熱を帯びる。



もしかして。

いいや、もしかしなくっても。



勢いよく、彼女を見た。


また、二人の間に、静かな空白。


その後。



｢いつも、ありがとう。｣



呟くと、

彼女の顔が、中心から真っ赤になる。


そしたら彼女は、そのコンビニの袋を手に取って、


｢今日から一週間前だって忘れてて…間違って買ってきちゃったから。｣


どうぞ。と、差し出す。


それから、丁寧目に息を吸う音がして、


｢頑張って。応援してる。｣



凛とした、綺麗な瞳。



俺は、それを受け取って、


｢おう。｣


と、短い返事の中に、はやまる鼓動を隠した。



君が、観ていてくれるなら、


俺は、もっと強くなれる気がする。

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