【オリジナル】君は夢の中で僕を殴った。

◆ ページ8

「この電車、どこに行くの」
「ん？ あのデパート近くの駅だよ、あそこ」
「いや……そうだね。なんでもない」

　質問の意図が読めない君はちょっと小首を傾げて、にひひ、と笑った。胸が痛かった。何故だろう。僕はこの胸の痛みを、知らないことにしてきたのだから。

「大丈夫、思い出の終着点にはいかないわ」

　視界が揺れる。
　きっと君は、彼女は意図せず言っている。そう、だってそういう人だ。あの時が例えそうだとしても、君は、そう答える人だ。

　何か言わなきゃ、汗が溢れる。
　顔を上げたら──もう電車は発進していた。

「あ、」

　これで良かったのかと思う毎日。
　いやちがう、思わない。思ってなどいない。

　明日君に会ったら、今日言えなかった胸のモヤモヤの話をすればいい。だから思い続ける毎日など来ないのだ。──そうであったなら、どれほど良かったか。

　なあなあ、知らないままなら良かったのに。
君がやってくる『かもしれない』に浸って、そこから出なければ、ずっとずっと時間は流れないと思ったのに。

　今日も変わらず猫は動くし、電車は行くし。
　人は仕事へ出かけるし、昨日はいなかった誰かが今日は車を運転してる。
　箱を開けないと決めてるのに、変わらず世界は回り続ける。

　シュレディンガーの箱。
　この箱に、どんな意味があったのか。

　──僕は最近、どんどん、君の声と一緒にそれを忘れかけている。

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