【オリジナル】君は夢の中で僕を殴った。

01：シュレディンガーは結果を出さない ページ1

この部屋はくらい。暗いと書いて、くらいのだ。
昨日も暗かったし、その前も、その前も暗かった。

　と言うより元から僕は暗い部屋が好きだった。そこも、君とは正反対で。──だから君が来た時だけは部屋を目一杯明るくしたのだ。
　あちこちの電気を付け回って、なんなら君は家主である僕すら知らないコンセントやらスイッチやら見つけては、部屋をたくさん明るくした。「部屋が暗い！」とよく言ってきた。その度僕は「部屋が明るいと、色々見えちゃうだろ」と言い返すのだった。
　見えちゃいけないものは、あの頃は、何も無かったのだ。本当だ。ちょっとしたオタクアイテムが多くて、畳んでない服がベッドの上で霧散してるくらいだ。あと飲んだあとのペットボトル。モンスターの缶。これは僕らオタクの間では『魔剤』なんて呼ぶのだが、君は一向に理解しなかった。理解しないまま、君はどんどん勝手に僕の部屋を掃除した。だから僕もつられて慣れない掃除をした。そこからふたりの時間が始まったのだ。

　今は、見えたら困る。
　あの時よりも部屋がずっと汚いからだ。なかなか綺麗にならないからだ。綺麗にならないことが分かっては駄目なのだ。

　君が、君がいなくなった。いなくなった事を決定づける様な物は何も部屋に置かない。例えば写真とか。なぜならこれは何時でも撮れるから、わざわざ置かなくてもいいじゃないか。
　例えば思い出の品。これからどんどん新しいことがあるのに、思い出の品だなんて──ちょっと気が早すぎないか。

　例えば君の最後の手紙。
　君の親から渡されそうになったのを、僕は無我夢中で振り落とした。最後ってなんだ。手紙なんて、それこそLINEでも電話でもこれから沢山すればいい。

　──そしたらまた、ほら、いつも通りの今日が来るのだ。
　暗い部屋で待っていたら、君がいつものようにあのドアを開けてくれそうで。だから僕は、その仄かに残る『かもしれない』を確定させないまま、今日も君を待っているのだ。

　確定付けるまで、結果をちゃんと知るまで、現実を見るまで──君はまだ、死んでない。

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