ギュッとして！ ２

８９ ページ39

「たっ、大変です！」



在庫の記録をしていると、大学帰りの心夢ちゃんがすっ飛んで来た。



「何！？どうしたの！？」



こけそうになりながら私のもとに駆け寄った姿を見てただ事ではないと感じた。



「いっ、いっ、」



「い…？」



「イケメンが来た…！」



「…は？」



もう一度繰り返す。…は？



「ただでさえ人が来ないこの本屋にアインシュタインの河井さんが来た…！」



「…それだけ…？」



「はい、」



思わずため息が出た。



「何かあったのかと思って、ビックリしたよぉ…もうちょっと声のボリューム考えて…」



「すみません。興奮しちゃって！早く来てください！」



途中だったにもかかわらず、心夢ちゃんに引っ張られて席を立つ。



「心夢ちゃん！まだ終わってないんだけど！」



「大丈夫です！今おじいちゃんいないので！」



「ええっ…」



そういう問題じゃないと思うんだけどな…



「ほらほら！河井さんでしょ！」



心夢ちゃんが本棚の陰に隠れて前方を指差す。



確かに、検索画面に出てきた画像の人と同じ…河井さんで間違いなかった。



「やっぱ生の方がイケメン…」



心夢ちゃんがとろけそうな顔で河井さんを見つめる。



そのやたら熱い心夢ちゃんの視線を感じたらしく、河井さんがこちらを振り返った。



「ひゃあっ！」



心夢ちゃんがとっさに手で顔を覆う。



さっきあんなに見てたのに、なんで自分から見えなくする？



「すんません、ここの店員さんですよね？」



「はっ、はい！」



即答。



すると、河井さんの表情が『ん？』といった感じになる。



「？」



「心夢ちゃん、今帰ってきたばっかだから…」



返事をした心夢ちゃんの格好は、セーターにガウチョパンツ、赤いコートに黒いリュックという、とても本屋の店員とは思えない格好だった。



「あっ…私も店員です！今、大学から帰ってきたばっかなので…！」



すると疑問が解けたらしくパッと笑顔になって、



「そうやったんですか、なんかオススメとかありますか？」



と聞いてきた。



「オススメ…」



それに対してさっきまでの乙女の顔は嘘のように消え失せ、あきらかに困ってる心夢ちゃん。



急に声のトーン、変わったよ。



「Aさん、Aさん、」



小声で私の名前を呼び、河井さんに背を向けて、助けを求めてくる。



「どおしましょう、本とか全然読まないので、分かんないです！」



やっぱり。

９０→←８８

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す