聖杯 ページ17
日が頭上に登る頃。数刻前に出航した赤髪海賊団の船を追い、すっと甲板へお邪魔する。
シャンクス「…来たか。どうした?何の用だ?お前の事だ、悪いことはしないと思っているが…」
『…俺のわがままを叶えに。しかし…迷ってるんスよ。』
迷う?とシャンクスさんは飲み物を手渡してそう問いかけてくる。
1口飲み物を口に含んで、ジョッキを床に置いて、懐から聖杯を取り出す。
シャンクス「そりゃなんだ?」
目を丸くするシャンクスさんに、ただ一言"聖杯"と返せば、飲んでいたものを吹き出す勢いでむせ返る。
シャンクス「聖杯ぃ!?聖杯って言ったら、そりゃあお前…願いを叶えてくれるっつうお宝だろ!?」
『厳密には違う。病気治療や奇跡をもたらすものだ。直接的に何かを与えるようなものでは無い。』
シャンクスさん達はなんでそんなものがここに…と驚きを隠せないまま俺の手の中の杯を見る。
『…我が王、ブリテンの偉大なる騎士王は俺にこれを授けた。俺は、これを使ってエースを甦らせるわがままを通そうと考えていた。』
シャンクス「………そうか。」
『そのために、聖杯が奇跡を起こしてくれるように、沢山の者のエースへの想いをこの聖杯に込めた。ほとんどの確率で成功するだろう。』
そこで、俺は押し黙る。
成功するなら、実行すればいいじゃないか。それはもちろん、そうしたい。だけれど…
あれだけ辛い戦場を見てしまえば、自分のこの下した決断は、間違いなのではないかと思えてきたのだ。
『…それが正しいと、どうも思えなくなってしまって…』
シャンクス「…そうだなぁ。きっとあの場に居た者からすれば、かなり辛く長い戦いだったろう。エースを救うために命を落としたものも、エースを処刑するために命を落としたものも居る。
そうやって必死にもがいた結果。自分たちの知らぬところで奇跡やらなんやらが起きて…それだとまるで、自分たちの戦いが無駄な気がしてしまうな。」
『…俺の我儘。ただそれだけの理由で、これだけの人間の想いを無為にしていいのだろうか。』
手すりに体を預け、聖杯を高く掲げてみる。
…この聖杯を手にするのにも、かなり苦労した。この聖杯には、我が同胞ガラハッドの魂が宿っていると、勝手に俺は思っている。
『…ガラハッド、君はどう思う?こんなこと、君に聞いてしまえば、円卓の騎士が恥ずかしい!と怒るだろうか?』
109人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:みるつき | 作成日時:2022年9月27日 7時