[wrwrd]青に溶ける (ページ48)

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其の言葉が、何を指したのか、一寸解らなかった。

漸く理解した時、妙に嬉しくて、何だかどうすれば良いのか判らない感覚がした。ちゃんと仕事やっててよかったって、只其れだけとは言え。

「ま、真面目ゆえの信頼やん」

そう軽く言って、私の手を取った。この話題は終わり、と言いたいのだろうか。

「一寸来て」

眼を合わせようとしない彼は、其の儘手を引いて、部署のある階を通り過ぎて、階段を上がっていく。軈て、其の階段が、幹部たちの部屋を目指すものだと、理解した。

そりゃあ、そうだ。何度だってこの階段を無駄に上って居るんだから。

然し態々部屋まで行く気はないらしい。こんな時間になって、幹部なんて誰も彼も出払った廊下で足を止め、漸く私の方を見た。

「何でなん」

「え」

深海か、将又夜の海。そんな感じだ、彼の瞳は。

何時もは、凪いでいる。軽い笑顔を含んで、熱しにくい、そんな目をしているのに。

今日は違った。漣が立って居る。ゆらゆら、そんな中で見え隠れする感情が、私には迚理解出来なくて。

.

「何で、黙っとったん」

其の声は酷く平静を失って、だと言うのに静かな声だった。

何のことかなんて野暮な事は聴かない。

同時に、彼は私の解答……否、そんな奇麗な物では無い言い訳を、求めちゃいない事も、何となく解って居た。

何で、何て疑問を使ったくせに、責め立てる様な言葉だったから。

「自分の事は、自分で全部片づけようとする。そう言うのは確かに、自立心があるって事で、責め立てられるような事でも無いし、実際それで僕も助かっとる所一杯あるし」

並べ立てられた言葉の先は、彼だけが知っている。

合わせ直した目が、目を離すなと言う。

「やけど、流石に酷いやろ。『其れ位』ッて言うけど、見とったら解るよ。相当参っとったやん」

今迄、こんな表情を見た事がなかった。やるせない感情の中に、私の知らない感情が詰め込まれている、そんな表情。

私には理解が出来なかった。その感情も勿論の事、それらを私の方に向ける理由も、そうする彼の事さえ、私にはまったく理解できちゃ居なかったのだ。

「解っとる、俺の第一補佐なんてやっとるから、こんな変な事に巻き込まれとるんよな。刺激したくなかったんも、何より迷惑かけん様にしようとしたんも、ちゃんと解っとるんよ」

焦れた様な声色。嗚呼、そうだ。悲しみと、後悔の様な。

「……でも、怒らせて」

胸を締める様な声だった。