寄辺のノクターン ページ46
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「……A」
跡部が去り、ふたりきりになった部屋の中で、再度こぼした声は柔らかい橙に溶けて混じる。
逆光に陰になった、整った顔。
少しやせただろうか。脂肪が落ちたというより、若干やつれたように見える。苛烈さと過敏に神経をすり減らして、それでもそれが痛々しさではなく美しさを醸すのだ。
この男は美しい。
鋭い切れ長の目を隠すまぶた。長い睫毛が伏せられて、普段以上にくっきりと強調される。つるりとした頬、すっと通った鼻筋、薄い唇。パーツのひとつひとつが完璧なバランスで配置されている。
まさに静謐なる獣の美。ぞわぞわと背筋を走るのは、自らとは異なる強者という存在に対する、憧憬と畏怖。
――そして、その存在が、自分に心を許しているという、何にも代えがたい優越感。手を伸ばせば触れられる距離で、睫毛の一本一本まで観察できるほどの近さで、こうして無防備に寝息を感じていられることの充足感。隣にあることを許されていることの安心感。愛おしさの陰に隠れた、ひとりよがりの汚い感情に、Aは気付いているだろうか。
AAが好きで。自分の欲深さに辟易して、拒絶を恐れて、自分から逃げ出した方がまだ傷は浅くて、でも離れたくなくて。この日だまりの心地よさに身を置いてしまったから、身を焼かれることを知っていて、今もまだ、こうしてずるずるべったり貼りついている。
怖くて仕方がないのに、その恐怖の根源にしがみついて震えを癒そうとすることの、なんと滑稽なことか。
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角砂糖(プロフ) - 美琴さん» ありがとうございます!!(大声) (2020年3月11日 19時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
美琴 - 好きです(突然の告白) (2020年3月9日 20時) (レス) id: 0419c563a9 (このIDを非表示/違反報告)
角砂糖(プロフ) - 蘇芳さん» この作品を愛していただき本当にありがとうございます。この話の続編は、今の所はあまり考えていません。今非常に私生活が忙しく、それが一段落したら何か書きたいなとは思っていますので、いつになるかわかりませんが、もし気が向けばお付き合いいただけると幸いです。 (2020年1月30日 4時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
蘇芳(プロフ) - とても面白くて一気に読んでしまいました!もしもあるのなら続編楽しみにしています。これからも頑張ってください! (2020年1月24日 20時) (レス) id: ec6c109e68 (このIDを非表示/違反報告)
ピット☆(プロフ) - 角砂糖さん» そうです!覚えていてもらえて嬉しいです!!予定があるかはわかりませんが次の作品をお待ちしてます! (2019年11月20日 1時) (レス) id: f631e9f6d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:角砂糖 | 作成日時:2019年3月18日 21時