【テ.ニ.プ.リ】開花のコンツェルト

アナグラム、リポグラム ページ43

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「はー……」

　Aは大きなため息を吐く。要するにこのセンパイは、Aをおちょくって遊びたいだけなのだ。“気に入っていた”の言葉は、あながち狂言でもないのかもしれない。

「……俺、もうそういうのに噛みつくのはやめたから」

　Aは胡乱気に目を細めて言う。少し前ならいざ知らず、この合宿で自分の中の整理をつけた彼は、もうそんな言葉では揺らがない。――が、「でも」と、Aは目の光を強く剣呑なものにした。

「そのセリフ、仁王の前で吐いたら――テメェぶっ殺してやるからな」

　ぎらつく殺気。下から睨み上げる鋭い眼光。普段飄々としている毛利ですら、一瞬ひるまされた。
　――ああ。
と。脇をすり抜けて医務室に入っていく千景に、毛利はひとりごちる。
　――こいつは、正しく化け物だ。
　と。

「……その牙、抜かれないように気ぃつけえよー」

　ここには、そして世界には、化け物を飼い慣らしたい頭の狂った連中がうじゃうじゃといる。負かして、屈服させたい連中が。相手が獰猛であればあるほど、血肉沸く連中が。
　彼があの狂気性を、凶暴さをその身に秘め続ける限り――進む道はいばらの道だ。
　誰にも届かない忠告は、廊下の壁にむなしく消えた。


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