ばけものどもとワルツを ページ30
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ふんふん、とAは鼻歌でも口ずさみながら、機嫌良さげに歩いている。夏の残暑も大分やわらいだこの頃、日も落ちれば肌寒さを感じるようになった。さあっと吹く夜風になびく髪が、煌々と照る白銀の月明かりを返して輝く。
Aは気まぐれに、人の群れを避けてふらふらと漂い出すことがあった。何を厭うているわけでもない、彼の癖というか、質というか……ともあれそんなわけで、彼は散歩がてらわざわざ遠く離れた場所にある自動販売機まで出かけて行っていたのだった。ぷらぷらと片手で飲みかけの炭酸飲料のペットボトルを揺らしながら、彼は夜道をのんびりと歩く。
気楽そうな、あたかも何も考えていない風なAであったが、しかし内心では様々な思いを巡らせていた。AA、こう見えて、案外いろいろなところに思慮も巡らせる人間である。
今彼の胸中を占めているのは、先ほどもたらされた新たなる強敵の存在だった。
時は本日のトレーニングの終盤にまでさかのぼる。
コーチ陣より通達された、選抜メンバーの選出。鬼、入江を中心にもたらされた、U-17日本代表、一番コート上位者――通称“Genius10”の帰還と、一番コート入れ替え戦の開催の情報は、衝撃と興奮を纏って中学生たちの間を駆け巡った。
Aは、コート争いにもトップにも、さして興味はない。しかしこの、何とも言えない胸騒ぎは、どうも落ち着かない。Aの勘はよく当たるのだ――それがさも当然のように。
さて、彼がコートにまで差しかかった、その時である。人の気配が数名分と、そして揉めてでもいるのか、なにやら不穏な雰囲気。
日々のトレーニング時間を終えても自主練をする者は多々いて、しかもそれは夜遅くまで続く。Aにしてみればやや理解できない境地であったが――だって夜は寝たい――、しかし、いざこざが起きているとは何事だろうか。
何とはなしに、彼はそちらに足を向けた。
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角砂糖(プロフ) - 美琴さん» ありがとうございます!!(大声) (2020年3月11日 19時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
美琴 - 好きです(突然の告白) (2020年3月9日 20時) (レス) id: 0419c563a9 (このIDを非表示/違反報告)
角砂糖(プロフ) - 蘇芳さん» この作品を愛していただき本当にありがとうございます。この話の続編は、今の所はあまり考えていません。今非常に私生活が忙しく、それが一段落したら何か書きたいなとは思っていますので、いつになるかわかりませんが、もし気が向けばお付き合いいただけると幸いです。 (2020年1月30日 4時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
蘇芳(プロフ) - とても面白くて一気に読んでしまいました!もしもあるのなら続編楽しみにしています。これからも頑張ってください! (2020年1月24日 20時) (レス) id: ec6c109e68 (このIDを非表示/違反報告)
ピット☆(プロフ) - 角砂糖さん» そうです!覚えていてもらえて嬉しいです!!予定があるかはわかりませんが次の作品をお待ちしてます! (2019年11月20日 1時) (レス) id: f631e9f6d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:角砂糖 | 作成日時:2019年3月18日 21時