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王様と番犬 九戦目 ページ29

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 タンッとAの足が地面を踏み叩く。軽やかだが、先ほどに比べれば大分遅い。幸村がリターンをしているからだ。大きく上がったロブに、菊丸が飛びついた。

「菊丸ー、バズーカ!」

 それは、試合を決する決定打だった。勢いよく放たれる渾身の一撃――その時、ボールが菊丸のラケットに触れるか触れないかといった具合の、その時分に。

「――――レフト!」

 と、Aの大きな怒鳴り声がコートに響いたのだった。
 その言葉を、皆が脳で認識した時には既に、菊丸の手は打球を放っていた。軌道を修正するにはもう遅い。
 幸村の伸ばされた手の先、ラケットの先を、ボールは掠めて――ようやく、この異例のダブルスの試合は幕を閉じたのだった。

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「……見たか、教授」
「ああ……」

 沸く歓声の中、データマンたちは密やかに言う。

「Aの声――あの時の幸村は、確かに反応していた」
 あの瞬間、幸村は――かすかに身体を左に傾けていた。足を出すには至らない、身体を向けるには足らない――そんな小さな反応だったが、しかし、確かに。
 Aのあれは、やはり彼の察知能力のたまものだろうが――言葉の意味を認識してからでは、あの反応はできない。だから、つまり。幸村は、その前から、彼の発する号令を把握していたと言える。

「…………」
「…………」

 二人は押し黙る。あまりにも無限大過ぎる、強大で壮大過ぎる可能性に、押し黙る。
 だって、それは。相手の意図を汲む、心を通わせるそれは。
 まるで正規の、同調のようではないか。
 コートの中の、神経を使って消耗したのだろう脱力しているAと、悔しそうではあるがどこか晴れ晴れとした幸村と。彼らは、まさしく、天才と呼ぶにふさわしかった。


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角砂糖(プロフ) - 美琴さん» ありがとうございます!!(大声) (2020年3月11日 19時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
美琴 - 好きです(突然の告白) (2020年3月9日 20時) (レス) id: 0419c563a9 (このIDを非表示/違反報告)
角砂糖(プロフ) - 蘇芳さん» この作品を愛していただき本当にありがとうございます。この話の続編は、今の所はあまり考えていません。今非常に私生活が忙しく、それが一段落したら何か書きたいなとは思っていますので、いつになるかわかりませんが、もし気が向けばお付き合いいただけると幸いです。 (2020年1月30日 4時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
蘇芳(プロフ) - とても面白くて一気に読んでしまいました!もしもあるのなら続編楽しみにしています。これからも頑張ってください! (2020年1月24日 20時) (レス) id: ec6c109e68 (このIDを非表示/違反報告)
ピット☆(プロフ) - 角砂糖さん» そうです!覚えていてもらえて嬉しいです!!予定があるかはわかりませんが次の作品をお待ちしてます! (2019年11月20日 1時) (レス) id: f631e9f6d4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:角砂糖 | 作成日時:2019年3月18日 21時

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