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王様と番犬 七戦目 ページ27

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 じわりじわり、と点差は開き始める。勿論、押しているのは立海ペアの方だ。

「どーすんのさ大石いー」

 間延びした甘えるような声音は菊丸の得意技だ。問われた大石は難しい顔で呻る。あの特異な同調、あれを攻略しないことには、この試合は制せない。どうやって?
 もとより脅威であったAの“野性”は、幸村と同調することで極限まで高められている。意識の矛先を幸村精市ただひとりの存在に集束させることで、彼を司令塔とし他の情報を排除することで、爆発的に能力を高める――Aだからこそ為せる技、恐らく彼にしかできない同調……。

「――……あ」

 ぱた、と大石がこぼした声に「なになに、なにすんの?」とひょこひょこ近寄る菊丸。その耳元でそっと考えを共有する。
 作戦とも言えないような賭け――だが、「わかった、やってみる!」と大石を信頼しきった顔で菊丸が頷くから。この思い付きに賭けてみようと思うのだ。

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 さて。
 試合に戻って、菊丸のサーブのターン。彼のサーブは、幸村のもとへと飛んでいく。

「…………」

 幸村はそのボールをただ見ている。見ている。見て――とん、とボールが軽く地面にバウンドしたところで、その中に、閃光が割り込んでくる。Aだ。彼の振るうラケットがボールを捉える。
 先ほどから幸村はボールに触れていない。彼はAに言葉なく指示を出すのみ、実働するのはAひとりだ。
 だから――そこさえ崩してしまえば。

「ほいほいっと!」

 リターンを、ネット際で菊丸が受け取る。反応の速さは、先を読んで――否、“感じ取って”――行動するAには及ばないが、身軽さであれば菊丸のアクロバットが一枚上手だ。再び幸村の側に打ち込んでいく。
 短時間で続けざまにやって来る打球を、しかしさすがのAは“感じて”いたのだろう、冷静に返球する――が、狙いはそこじゃない。
 自然、接近してきた形のAから距離を取り、コートの反対側に回る幸村。当たり前だ、試合の状況をよく把握するために、視野を広く持つ必要がある――その位置を入れ替えるタイミング、幸村の意識が、少しでも他に向くタイミング。

「そっこだー!」

 ぱん、と弾ける音、高らかな声と共に打ち出された球は、完璧な軌跡を描いてそのポイントを直撃する。
 果たして。

「…………!」

 幸村のラケットが振るわれる。彼らが同調を見せてから、幸村が初めてボールに触れた瞬間だった。


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角砂糖(プロフ) - 美琴さん» ありがとうございます!!(大声) (2020年3月11日 19時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
美琴 - 好きです(突然の告白) (2020年3月9日 20時) (レス) id: 0419c563a9 (このIDを非表示/違反報告)
角砂糖(プロフ) - 蘇芳さん» この作品を愛していただき本当にありがとうございます。この話の続編は、今の所はあまり考えていません。今非常に私生活が忙しく、それが一段落したら何か書きたいなとは思っていますので、いつになるかわかりませんが、もし気が向けばお付き合いいただけると幸いです。 (2020年1月30日 4時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
蘇芳(プロフ) - とても面白くて一気に読んでしまいました!もしもあるのなら続編楽しみにしています。これからも頑張ってください! (2020年1月24日 20時) (レス) id: ec6c109e68 (このIDを非表示/違反報告)
ピット☆(プロフ) - 角砂糖さん» そうです!覚えていてもらえて嬉しいです!!予定があるかはわかりませんが次の作品をお待ちしてます! (2019年11月20日 1時) (レス) id: f631e9f6d4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:角砂糖 | 作成日時:2019年3月18日 21時

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