王様と番犬 二戦目 ページ22
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右に三歩、前に大きく一歩でドロップを拾う。手に伝わる、ボールを捉えた心地いい衝撃、心地いい音。びり、と背後の気配がかすかに揺らいだ感じがして――、はいはい、邪魔だってことね。避けますよ。ザっと足裏を滑らせて、左へステップ。とんとんっ、と爪先で地面を軽く叩く。
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「あのダブルスにおいて、主導権を握っているのはどちらだと思う」
「主導権?」
赤也は首を傾げた。
「ああ。あのダブルスの強さは、二人の“協力”ではない。AAという、強力かつ諸刃の武器をいかに使いこなすか――言うならば“使役”の強さだ」
主導権という意味なら、百パーセント幸村精市にある。
Aがこの幸村とのダブルスを拒むのも、むべなるかなという話だ。彼は誰かの指示で動くことに、安寧を見出す性格ではない。それでも彼が幸村に従うのは、それが勝利への最善策だとわかっているからだ。
「それは信頼とは程遠い――あるのは“命令”、そして一方的な“支配”だ。ただそれが、唾棄すべき一方的な暴力にならないのは、あの二人だからだろうな」
他の者には真似できないだろう。Aの持つ能力を余すところなく理解し使いこなす幸村と、幸村の指示に余すところなく応えて見せるA。“信じている”ではない、ただ彼ならできるだろうという“事実”。ただそれが、そうであるだけのこと。
「ちなみに、Aが目を瞑るのは、幸村の指示を察知するためだ。一口に指示と言ったって、言葉で飛んでくるわけじゃない」
幸村の次の行動と、自分の身の振り方――それを感じ取ることでAは動いている。幸村がAに何を求めているのか――察しの良さも、ここまでくればテレパシーだ。視覚を遮断することで、他の感覚を鋭くさせるという寸法だ。
「昔さあ……俺たちが一年の、あの二人がダブルス組んでた時のことだけど。あのペアに、呼び名が付いてたんだよな」
ぽつりとブン太が言うそれは、例えば菊丸と大石が黄金ペアと呼ばれるような。ブン太とジャッカルでプラチナペアと呼ばれるようなそれ。
「最初は多分、やっかみとか嫌味とか、そんな感じだったんだろうけど」
愚かな君主と、その言いなりの畜生風情。
忌避され疎まれていた獣と、それを見つけ出し使いこなした圧倒的な才能と。からかいの意図を含んだその名を、しかし一瞬で栄光に変えたのも彼らだった。
その呼び名こそ。
「――王様と番犬」
と。
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角砂糖(プロフ) - 美琴さん» ありがとうございます!!(大声) (2020年3月11日 19時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
美琴 - 好きです(突然の告白) (2020年3月9日 20時) (レス) id: 0419c563a9 (このIDを非表示/違反報告)
角砂糖(プロフ) - 蘇芳さん» この作品を愛していただき本当にありがとうございます。この話の続編は、今の所はあまり考えていません。今非常に私生活が忙しく、それが一段落したら何か書きたいなとは思っていますので、いつになるかわかりませんが、もし気が向けばお付き合いいただけると幸いです。 (2020年1月30日 4時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
蘇芳(プロフ) - とても面白くて一気に読んでしまいました!もしもあるのなら続編楽しみにしています。これからも頑張ってください! (2020年1月24日 20時) (レス) id: ec6c109e68 (このIDを非表示/違反報告)
ピット☆(プロフ) - 角砂糖さん» そうです!覚えていてもらえて嬉しいです!!予定があるかはわかりませんが次の作品をお待ちしてます! (2019年11月20日 1時) (レス) id: f631e9f6d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:角砂糖 | 作成日時:2019年3月18日 21時