王様と番犬 一戦目 ページ21
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ああ、それは確かに鮮烈だったのだ。
なにが「俺とダブルスペアを組んでくれないかな?」だ。断らせる気などこれっぽっちもない癖して。絡め手禁じ手なんでも使って、捕まえる気満々だった癖して。
彼は当時その時から、有無を言わさぬ王様だったのだから。
パンッと破裂音にも近い、高いショット音。大石が放ったサーブが真っ直ぐ飛んでくるのを最後に、Aは静かに目を閉じる。
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パコン、パコン、と球を打ち合う音が響く。まだ大人しいそれはいわゆる小手調べといったところだ。黄金ペアと名高い菊丸大石と、異例と言ってもいいかつてのペアである幸村A。
「え」
と、赤也がそんな風に上げた声は、えらく大きかった。
「あれ……A先輩、目瞑ってません!?」
長い睫毛をぱたりと伏せて。瞳を薄い皮膚のむこうに隠して。その状態でコートをたったか動き回ることにはもう驚かない。
幸村の打った球がコートに弾む。
「ほいほいっと!」
菊丸が拾って帰ってきたボール、横から切り込むようにステップを踏んだAが、それをかっさらった。
「でもなんで?」
「お前、何でもかんでも訊くのやめろよな」
首を傾げる赤也に、呆れたように言葉を投げるのはブン太だ。
「考えてもわかんねえっすもん!」
ふてくされる赤也だって、それなりに頭を働かせてみたりしているのだ。それが功を奏しているかどうかは別にして。
だって、わけがわからない。そりゃあ、目をつぶって試合をすることくらい、Aには容易いことなんてわかっている。わかっているけれど、だから何だというのだ。“できる”ことと“やる”ことは違う。いくら“できる”からと言って、今それを“やる”ことの意味が分からない。
「まー、A先輩のことだから、なんかはあるんでしょうけどー……」
むう、と唇を尖らせる。じとっとした目でAを見つめてしまったのくらいは、許してほしい。
「それがわかっただけ成長かのう」
愉快そうに仁王は笑った。
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角砂糖(プロフ) - 美琴さん» ありがとうございます!!(大声) (2020年3月11日 19時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
美琴 - 好きです(突然の告白) (2020年3月9日 20時) (レス) id: 0419c563a9 (このIDを非表示/違反報告)
角砂糖(プロフ) - 蘇芳さん» この作品を愛していただき本当にありがとうございます。この話の続編は、今の所はあまり考えていません。今非常に私生活が忙しく、それが一段落したら何か書きたいなとは思っていますので、いつになるかわかりませんが、もし気が向けばお付き合いいただけると幸いです。 (2020年1月30日 4時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
蘇芳(プロフ) - とても面白くて一気に読んでしまいました!もしもあるのなら続編楽しみにしています。これからも頑張ってください! (2020年1月24日 20時) (レス) id: ec6c109e68 (このIDを非表示/違反報告)
ピット☆(プロフ) - 角砂糖さん» そうです!覚えていてもらえて嬉しいです!!予定があるかはわかりませんが次の作品をお待ちしてます! (2019年11月20日 1時) (レス) id: f631e9f6d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:角砂糖 | 作成日時:2019年3月18日 21時