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ヘリオトロープ 黒 ページ18

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 少年・AAは、トーナメント戦の日から、また部活に来なくなった。部長や副部長から散々部活に来るよう言い含められてようやく一日二日顔を見せるのみで、それにしたってすぐにどこかへふらりと去って行ったり、終了時間ぎりぎりまで遅刻したりといった有様だった。当然周囲の心象は良くなく、密やかに、あるいは堂々と批判を受けていたが、本人に気にする様子はまったくなかった。

「…………」

 そうとなればやはり実害が出るのは必然で、そしてそれは、中学生という幼いが故の無知を孕んで軽々しく悪意へと変わる。つまり、簡単に言うなら――“いじめ”という言葉が一番状況を表すだろうか。

「…………」

 部長に引っ張り出されしぶしぶといった態度で二日ぶりに参加した部活後、ロッカーを開けたAの目の前には、水浸しになった自分の荷物がある。教科書類から着替えまで、すべてが馬鹿丁寧に、無残にびしゃびしゃにされていた。
 部室の片隅で固まった数人の生徒たちが、けたけたと笑う。勝ち誇ったような笑みだ。何に勝った気でいるのかは知らないが。
 Aはそれを一瞥する。現在よりはいくらか幼いとはいえ、その時すでに鋭さを備えた双眸を持っていた彼のまなざしは、一時彼らを黙らせるには十分だった。そのまま流れるように、Aは黙って部屋を出て行った。

「……なあおい、まずくないか?」

 生徒のひとりが言う。何も言わないAに逆に不安を持ったのだろうか、その声には少しばかり怯えが混じった。

「そうだよ、部長とか先生呼ばれたら……」
「構うもんかよ」

 しかし主犯格であろう生徒だけは、笑みを崩さない――否、やはり自分を奮い立たせでもしているのだろう、若干引きつってはいる。

「情けねえなあ、すぐタスケテーなんてよ」

 けたけた、笑ったのその時だった。
 ガンッと乱暴に開け放たれた部室のドアから、ずかずかと勢いよく入ってきた金髪頭。その片手には、プラスチックのバケツがある。彼は男子生徒の正面で立ち止まると、そのバケツを勢いよく振った。笑った表情のままの生徒の顔面に、大量の水が叩きつけられた。

「…………」
 突然のことに部室に降りる沈黙。ぴちゃ、ぽた、という水音。容赦なくびしゃびしゃになった男子生徒を見、「ハッ」とAは笑った。
 勝ち誇ったような笑みだった。


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角砂糖(プロフ) - 美琴さん» ありがとうございます!!(大声) (2020年3月11日 19時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
美琴 - 好きです(突然の告白) (2020年3月9日 20時) (レス) id: 0419c563a9 (このIDを非表示/違反報告)
角砂糖(プロフ) - 蘇芳さん» この作品を愛していただき本当にありがとうございます。この話の続編は、今の所はあまり考えていません。今非常に私生活が忙しく、それが一段落したら何か書きたいなとは思っていますので、いつになるかわかりませんが、もし気が向けばお付き合いいただけると幸いです。 (2020年1月30日 4時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
蘇芳(プロフ) - とても面白くて一気に読んでしまいました!もしもあるのなら続編楽しみにしています。これからも頑張ってください! (2020年1月24日 20時) (レス) id: ec6c109e68 (このIDを非表示/違反報告)
ピット☆(プロフ) - 角砂糖さん» そうです!覚えていてもらえて嬉しいです!!予定があるかはわかりませんが次の作品をお待ちしてます! (2019年11月20日 1時) (レス) id: f631e9f6d4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:角砂糖 | 作成日時:2019年3月18日 21時

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