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ヘリオトロープ 赤 ページ16

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 それは二年と半年ほど前、現中学三年生たちが、初々しい新入生であった頃の話である。当時から全国大会の上位常連、屈指の強豪校として名を馳せていた立海大付属中テニス部に、皆々様々な思いを抱いて入部していた。
 入部から一週間ほど経ったある日、一年生たちは部活後、当時の部長に召集された。

「――ん、ひとり少ないな。休みか?」

 並んだ新入生たちを前に、名簿とにらめっこしていた部長は、そう言って顔を上げた。

「ああ、それ、Aとかいう奴っすよ」

 傍にいた二年生がそう答える。

「入部届を出して以来、一度も部活に来やしねえ。舐めてんすかね?」
「へえ……学校には来ているのか」
「それが、遅刻や早退ばっかりみたいで。欠席も少なくないようです」
「今からそれじゃあ、先が思いやられるな」

 部長は苦笑する。

「まあ、部活動に関しては、あまり度が過ぎるようなら――残念ながら退部してもらうことになるがな」

 まあそれはいい、と彼は仕切り直した。

「連絡事項を言い渡す。明後日の部活で、一年から三年まで混合で、トーナメント戦を行う。シングルスの試合だ。もちろん、上級生は手強い相手になるだろう――が、ぜひ全力で取り組んでもらいたい」

 ざわ、と一年生はにわかに色めき立つ。入部早々に与えられた上級生に挑戦する機会に、奮い立つ者、不安の声を上げる者、反応は様々だ。

「トーナメント戦は、現レギュラーメンバーを除いた全員で行う。上位四名に残った者が、レギュラーへの挑戦権を得る。そこで勝てば、次回の大会のレギュラーの選考に大きく期待が持てるだろう。頑張ってくれ」

 以上だ、と部長は話を締めくくった。「誰かAと同じクラスの者はいるか? 彼にも伝えておいてくれ」と付け加えるのも忘れない。

「レギュラー、捕れるんだってさ」

 ざわめく一年生の中で、ふふ、と笑うのは、現在よりも随分あどけなく幼さを十二分に残した、在りし日の幸村精市である。

「無論、勝ち取るつもりでいく」

 ふん、と意気込んでいるのは、これまた幼き日の真田弦一郎――他の面々も、皆幼さを滲ませた面持ちで、その日が来るのを待っていた。


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ヘリオトロープ 青→←What's your name? □



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角砂糖(プロフ) - 美琴さん» ありがとうございます!!(大声) (2020年3月11日 19時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
美琴 - 好きです(突然の告白) (2020年3月9日 20時) (レス) id: 0419c563a9 (このIDを非表示/違反報告)
角砂糖(プロフ) - 蘇芳さん» この作品を愛していただき本当にありがとうございます。この話の続編は、今の所はあまり考えていません。今非常に私生活が忙しく、それが一段落したら何か書きたいなとは思っていますので、いつになるかわかりませんが、もし気が向けばお付き合いいただけると幸いです。 (2020年1月30日 4時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
蘇芳(プロフ) - とても面白くて一気に読んでしまいました!もしもあるのなら続編楽しみにしています。これからも頑張ってください! (2020年1月24日 20時) (レス) id: ec6c109e68 (このIDを非表示/違反報告)
ピット☆(プロフ) - 角砂糖さん» そうです!覚えていてもらえて嬉しいです!!予定があるかはわかりませんが次の作品をお待ちしてます! (2019年11月20日 1時) (レス) id: f631e9f6d4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:角砂糖 | 作成日時:2019年3月18日 21時

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