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What's your name? × ページ14

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 ネットの向こうでは、大石と菊丸が顔をつき合わせて何かを話している。作戦会議だろうか。ぴょこぴょこと落ち着きなく動き回る相方を嗜めつつ苦笑する大石が、手振りで何かを伝えていて、それに対し菊丸がしきりに頷く。
 そんな二人をながめながら、幸村は身体を伸ばしていく。のんびりと、悠然とした雰囲気だ。
 ――遅れること十数分。がしがしと金色の頭をかき回しながら、ゆっくりとした足取りで現れた男は、長々とため息を吐きながら幸村に並んだ。

「遅いよ。敵前逃亡したのかと」
「抜かせ馬ァ鹿」

 厭々と舌を打つAに、くすくすと笑う幸村。

「……それで? ご命令は、ご主人サマ?」

 細められた瞳が、爛々とした光を抱えて幸村を射抜いた。言葉こそへりくだっているようなセリフの癖に、語尾に湛えられた嘲笑が、剣呑な瞳が、彼に威圧を醸し出す。油断して背を向けてみろ、その瞬間に喉笛を噛み千切られでもしそうな、研ぎ澄まされた危うさ。幸村は立ち上がって、その目を見返してやる。逸らさない。逸らしたら負けだ、この獣を従わせることなどできやしない。俺が上だ、傅いて頭を垂れろ、その首に首輪をつけてやる。
 目の奥の虹彩までを睨みつけてから、ふ、と頬を緩めた幸村は、トン、と彼の胸の真ん中を強めに押した。数歩、Aはたたらを踏む。

「――――好きにやれ」

 ぱち、とAの長い睫毛が羽ばたいた。

「めーずらしい」

 きょとんとした表情から、ふは、と破顔した彼は、そう言ってけらけらと笑った。


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「わお、臨戦態勢って感じだにゃあ」

 ネットの向かい側の様子を眺めて、菊丸が言う。どうやらAはこの勝負に乗り気ではなかったようだ――というか、あの少年がことテニスに関して乗り気なことは滅多にない――が、しかし、いざその場に立つとなると、手を抜く、おざなりにやり過ごすという選択肢は選ばれないらしい。
 何やら幸村と二言三言交わした彼は、覚悟を決めたようなまなざしでこちらを見ている。その視線に、ぞく、と武者震いのようなものを感じて、大石は背筋を流れる冷や汗を感じながら、言った。

「絶対勝つぞ、英二」
「モチのロンだよん!」


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角砂糖(プロフ) - 美琴さん» ありがとうございます!!(大声) (2020年3月11日 19時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
美琴 - 好きです(突然の告白) (2020年3月9日 20時) (レス) id: 0419c563a9 (このIDを非表示/違反報告)
角砂糖(プロフ) - 蘇芳さん» この作品を愛していただき本当にありがとうございます。この話の続編は、今の所はあまり考えていません。今非常に私生活が忙しく、それが一段落したら何か書きたいなとは思っていますので、いつになるかわかりませんが、もし気が向けばお付き合いいただけると幸いです。 (2020年1月30日 4時) (レス) id: 651af228bd (このIDを非表示/違反報告)
蘇芳(プロフ) - とても面白くて一気に読んでしまいました!もしもあるのなら続編楽しみにしています。これからも頑張ってください! (2020年1月24日 20時) (レス) id: ec6c109e68 (このIDを非表示/違反報告)
ピット☆(プロフ) - 角砂糖さん» そうです!覚えていてもらえて嬉しいです!!予定があるかはわかりませんが次の作品をお待ちしてます! (2019年11月20日 1時) (レス) id: f631e9f6d4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:角砂糖 | 作成日時:2019年3月18日 21時

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