第三十二話 供花の知らせ 不死川視点 ページ35
大きな任務が終わり落ち着いた頃、俺は旧友に会いに来ていた。
ただ静かに見守っている旧友に、そっと花とおはぎを供える。
温かい風が、俺を歓迎しているかのように優しく供花をなでた。
そなえた線香の煙が宙に
「なぁ、匡近」
俺は一度空を見上げるとつぶやいた。
「継子、持ったんだ。
あの糞ジジイが調子に乗りやがってヨォ。
ったく、お前みたいにお人好しじゃねェのに、押し付けんな。
まだ十五のガキだ、しかも女。
……お前はきっと驚くだろうな。
俺よりもこうゆうのはお前の方が方が向いてるもんなァ」
言葉が口から思うように出ず、俺はしばらく旧友の墓石を見ていた。
「んじゃ、またな」
俺は最後にもう一度、揺れている供花を見ると旧友を背に歩き出した。
墓参りのついでに共同墓地にも行くか。
こんなふうに言ったら、匡近は怒るだろうが。
今は亡き旧友との思いを胸に浮かべながら、共同墓地のある竹林を目指して歩いた。
ムカついたこと、嬉しかったこと、悲しかったこと。
懐かしさと悲しみの思い出にふけていると、後ろから声をかけられた。
「不死川さん? 」
その声は聞き覚えのある、静かでどこか強い決意を持つ声だった。
「はぁ、お前か」
「お前って、何ですか」
匡近に報告したばかりなのにヨォ。
アイツの嫌がらせか?
「何でもねェ」
「そうですか。
ここにいらっしゃるという事は、遠征任務は終わったのですね」
「まぁな。それと、カラスから聞いたぞ。
一週間で全集中・常中を会得したんだってなァ」
「はい……でも。
でも、相当無茶な稽古をしていたので、胡蝶様には叱られましたけどね」
「そうか。
……にしても、お前が墓参りとはなァ」
「はぁ、目の前で亡くなった仲間の墓参りをしないほど、
薄情な人間になったつもりはありませんよ」
そう言って己を自嘲する姿は、俺にとって知らない志那戸辨の姿だった。
コイツ……
「変わったな」
「は? 」
予想もしていなかったであろう俺の一言に、志那戸辨はとても驚いた顔をしていた。
そういう俺も、口に出していたと知って少し驚いたが。
前は、こんな風に自嘲しなかった。
いつもしっかりと前だけを見つめて、振り向きすらしなかった。
まるで、『己は正しい』と思っているようだった。
けれど、今などうだ?
己の選択を後悔しているのか、それとも……
「何が、あったんだ」
「……別に。
ただ……己の愚かさに気付いただけですよ」
志那戸辨はそう一言短く答えると、静かにうつむいた。
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庵原史穂(プロフ) - 西村莉唯(りあ)さん» 西村莉唯様、温かいお言葉ありがとうございます。ご期待に添えるようこれからも精進して参りますのでよろしくお願い致します♪ (2022年3月6日 17時) (レス) id: 0038db6d5e (このIDを非表示/違反報告)
西村莉唯(りあ)(プロフ) - 更新したら私即見ます!なので頑張ってください! (2022年3月6日 16時) (レス) id: 929c6fdeb8 (このIDを非表示/違反報告)
庵原史穂(プロフ) - 夏美さん» ありがとうございます! (2022年2月19日 22時) (レス) id: 0d9f41f564 (このIDを非表示/違反報告)
夏美(プロフ) - 更新頑張ってください! (2022年2月19日 22時) (レス) id: 5adf9ec04a (このIDを非表示/違反報告)
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