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(安室視点)





午後十時。


俺はベルモットに呼び出され、とあるホテルの屋上にあるバーへとやってきた。




あのベルモットが素顔で人前に現れるはずもない。


しかし、肝心の変装後の顔を知らされることなく呼ばれた俺は、まず彼女が誰に化けたのかを探るところから始めねばならなかった。




何故こんなにも手のかかることを…と当初の俺は疑問に思っていたのだが、それもバーを訪れた瞬間に理解する。




(メルロー…!?)




バーのカウンターにひとりで座る女性。


凪いだ表情でグラスを傾けるその人は、誰がどう見てもメルロー本人だった。




しかしメルローがこの日、この時間に、こんな場所で、優雅にくつろいでいるはずがない。


それこそが、この女がメルローではないことを結論づける決定的な証拠だった。




「何故よりにもよって裏切り者に化けているんです?」




俺が彼女の隣に腰掛けると、メルローの顔をしたベルモットは、口からグラスを離して薄く笑った。




「この姿に動揺して駆け落ちでも申し込んでくるようなら、それはそれで儲けものだったのよ?」

「…悪趣味ですね。」

「ジンに言ってちょうだい。この姿で街をうろつくように言ってきたのはジンなんだから。」

「なるほど、あぶり出しというわけですか。」




この彼女の姿を見て動揺する者がメルロー、もしくはその協力者というわけだ。


しかしこの完成度では組織の者すら引き寄せるのではなかろうか。




ベルモットはグラスをカウンターに置くと、自然な動作で俺の腕にその細腕を回した。




「バーボン。」




メルローの声だ。


俺は思わず口を閉ざした。




「分からないの。私の居場所。」




つまらなそうに囁かれる。


彼女の手が俺の指を弄ぶ。




…………本当に、悪魔的な演技力。




「ええ、知りませんね。」




口惜しいことに。–––––本当に。


全くもって、口惜しい。




これが毛利小五郎、ひいては篠崎Aがこのバーにやって来る、数分前の出来事。

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作者名:しま | 作成日時:2018年4月29日 21時

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