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豪華客船沈没から二時間後。
金髪ロングのウィッグを被りメガネを外し、一応サングラスをかけて佐藤千佳子の家を出た。
気分はハリウッドスターである。
特にパソコンで父とメールのやり取り等していたわけではないので、佐藤千佳子の自宅には有益な情報は何一つない。
強いて言うなら私の指紋や毛髪くらいだろうか…
でもそのくらいならきっと組織にいたときも残しているだろうし、その痕跡があっても出来ることと言えばメルローと佐藤千佳子が同一人物かどうか判定する程度。
だから私は、基本的にこのディスクさえ持ち歩けばなんの問題もない。
・
「ただいま、父さ……」
「Aーーー!!」
篠崎家に帰宅するなり、父が突進してきた。
安定の大号泣である。
若干慣れてきた私は軽く父をなだめながら談話室に入り、これからのことを相談する。
「残りの一週間はここで篠崎Aとして過ごせば良い?」
「グスッ……うん、そうだね。君はたった今海外旅行から帰ってきたという設定だから、それも忘れないように。」
それから、と父は涙目でテレビを見る。
放送されているのはニュース番組で、今は臨時ニュースを読み上げているようだった。
内容は……あ、さっきの豪華客船沈没についてか……
「乗客一名が行方不明、と報じられている。……間違いなく君のことだろうから、こうして姿を変えて生きていることを悟られないよう、十分に注意して。」
「うん。もしかしたら生きてること自体はバレるかもしれないけど…」
ウォッカはともかく、ジンが勘付かないはずがない。
しかし沈没船からの脱出と篠崎Aにチェンジするための時間さえ稼げればいい話だったので、今後佐藤千佳子(メルロー)の生存が発覚したとしても差し迫った問題にはならない。
どれだけ過程に問題があっても、最終的に残り一週間を逃げ切れば勝ちなのだから。
「あとちょっと……」
私が疲労感を隠すことなく呟くと、父も神妙に頷いた。
そして彼は祈るように目を伏せた後自身の左手薬指に輝く指輪にするりと触れて、ぽつり、呟きを落とす。
「もう少しだよ……エミリア。」
父のその様子に、私は少し狼狽えた。
……あれ、もしかして、今世の母さんって……
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作者名:しま | 作成日時:2018年4月29日 21時