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できる限り避難客の目に留まらないよう海上を移動する。
ジェットスキーのエンジンを噴かす音は幸か不幸か爆発音に掻き消されているようなので、人目を忍んで移動するのは案外楽だった。
港に乗り付けた後はすぐさま近場の倉庫街へと駆け抜け、ひとまず身を潜める。
とにかくこの時間で父に連絡を入れておこう。
そう思い立ち父の番号にかけ直すと、父は一回のコール音の直後に電話に出た。早い。
『どうしたんだい。』
「ごめん、私がメルローだってこと組織にバレたっぽい。」
電話の向こうがいきなり騒々しくなった。
ドンガラガッシャーンドカーンドドーンと何が起こっているのかめちゃくちゃ気になる音の大合奏ののち、父が慌てた様子で再び電話をとる。
『だだだだ大丈夫大丈夫だからね僕が逃走経路を指示するからえーとえーとまずは君今どこにエッ港じゃないか早すぎないかな予定だと十六時帰港じゃなかったかい何があったん、』
「待ってごめん話を端折りすぎた。ちゃんと説明するからね落ち着いてね。」
予想以上にパニクられた。
先ほどの言葉足らずの報告に後悔しながら仔細に状況を語ると、父はいくらか落ち着きを取り戻した様子で『……そっか。』と呟いた。
大丈夫かな。脳みそキャパオーバーしてないかな。
『大変だったね。じゃあ予定とは違うけれど、佐藤千佳子はもう廃業。くれぐれも組織に勘付かれないよう篠崎Aに戻った後、篠崎家に帰還してくれ。』
私は父の指示に了承の意を示した後電話を切った。
さあ、避難客が港にたどり着く前にここを立ち去らねば。
よいしょと立ち上がった私は、一度港の方を見た。
……んっ?
ふと港に、数人のギャラリーに混じって真っ黒い人が二人ほど並んで佇んでいることに気づく。
倉庫街は港からそこそこ距離が開いているため、顔までは見えない。
さらに目を凝らすと、それは銀の長髪のたなびかせる男と、なかなかガタイの良い男の二人組であるようだった。
アハハハハ。
うわー、ジンとウォッカに似てやんのー。
ウォッカ(似)とジン(激似)は沈没してゆく豪華客船には目もくれず、その代わり熱心に何かを見つめている。
おや、視線は下に向いてるようだけど……?
おやおや、あそこって確か私がジェットスキーを乗り捨てたあたりじゃ……??
……見なかったことにしましょうか。
私はそそくさと現場を後にした。
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作者名:しま | 作成日時:2018年4月29日 21時