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(コナン視点)
あの豪華客船の沈没事故から三日が経った。
沈没“事件”ではなく“事故”。
爆発物の特定が出来なかったために、警察は事故として片付けざるを得なかったらしい。
さらにその“事故”の後、行方をくらました人物がひとり。
佐藤千佳子。
本名はフェリス・ナッシュ。
そして、コードネームはメルロー。
彼女は組織の重要機密を盗み出したMI6の諜報員だった。
……三日前までは。
彼女は何者かの術中にハマり、爆殺され、三日前の豪華客船沈没とともに海の底へと沈んだのだ。
消されたメルロー、証拠も残さないこの手口。
間違いなく、あの爆発は組織によって手引きされたものだった。
組織の目的は明白だ。
メルローによって盗まれた機密情報の削除。
そして裏切り者であるメルローの抹殺。
それを大胆な手口で成し遂げ、再び忽然と姿を消した。
(メルローが生きていれば、あと四日で情報が開示されるはずだった。)
その情報があれば、組織壊滅も夢ではなかった。
そうなれば、これまで組織に苦しめられ殺されてきた
工藤新一の姿に戻ることが叶って、これ以上、蘭を悲しませることもなくなるはずだったのに。
……安室さんだって、あの絶望を味わうことはなかったはず、なのに。
今はまだ海から死体が上がったとの情報は入ってこないものの、もしその一報が安室さんの耳に入ってしまったら、彼はどうなってしまうのか。
ただでさえ日に日に憔悴しているのが目に見えて分かるのだ。
これ以上、彼が無理をする姿は見たくないのだけれど。
遣る瀬無い思いでとぼとぼと夕暮れに染まった道を歩く。
米花公園を通りかかったとき、ふと顔を上げた。
その動作に、特に意味はなかった。
ただ何となく顔を持ち上げたというだけだ。
偶然顔を上げて、視線が向いたその先に、見覚えのある後ろ姿があった。
ふらりと公園に立ち寄る。
そこで、ベンチに座ってぼうっとしている女性に声をかけた。
「Aさん……?」
女性はおもむろに下を向き、俺と目を合わせ、きょとんと首を傾げる。
「あ、コナンくんだ。」
二ヶ月ぶりに見る、篠崎Aさんの姿だった。
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作者名:しま | 作成日時:2018年4月29日 21時