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ピリリリという甲高い音で目が覚めた。
音の発信源を手で適当に探り当て、手繰り寄せる。
発信源はスマホだった。
画面には見知らぬ番号が表示されていたが、一応【通話】をタップして耳に当てる。
「…………はい。」
『久しぶりA。僕だよ、君のパパ。』
父からの電話だったらしい。
はて、父は今の私–––––––佐藤千佳子との接触は極力避けるのではなかったか。
眠気でぼうっとした頭のまま通話を続ける。
「あれ、電話はかけてこないんじゃ…」
『うん、でもちょっとだけ気になってね…A、今君は何をしてるんだい?』
「ああ、今豪華客船に乗ってる。」
『なるほどね…いやあ、君の現在地が海上に表示されていたものだからびっくりしてしまって…』
……はっ?
父の言葉が理解しきれず、そんな声が私の口からすっぽ抜けた。
すると父は慌てた様子で『あ、あのね!』と事情を話し出す。
『Aが危険な目に遭ってないかどうかを少しでも把握しておきたくて…!君のスマートフォンにGPSアプリを入れておいたんだ!』
「あ、ああそう…」
『ごっごめんね、説明もなしに…怒ったかい…?』
「いやストーカーみたいって思った。」
私が率直な感想を述べると、電話の向こうからドサッという音が聞こえた。
おそらくは父がショックで倒れ伏した音だろう。
大げさだな、と思いながらも謝ると、父は涙声になりながら『そういえば…』と切り出す。
『なんだか雰囲気が変わったね…』
……あ、話し方のことか。
ここしばらくお嬢様口調はしていなかったから忘れていた。
しまった……そういえば父との会話もお嬢様口調で揃えてたっけ。
しかし今さらあの話し方に戻るのもなんかなあ、と思ったので開き直ることにする。
「いや、こっちの方が話しやすいから。前の方が良かった?」
『…いいや。どんな君も、僕の大切な娘だ。君は君の思うままに振舞ってくれ。』
…なんか解せない納得のされ方したんだけど、気のせい?
妙に物分かりが良いのもちょっと気になるけれど、深くは追求しないことにした。
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作者名:しま | 作成日時:2018年4月29日 21時