210 ページ14
「……ええ、と」
「……帰るよ」
昨日と変わらず金田一くん達が送ってくれると言っていたのだが、本を読む私の前に立っていたのは及川さんだった。それを見た瞬間、恐らく罠に嵌められたのだと分かった。
これに関しては避けようがない罠だ。私はまだ夜道を一人で帰ることが怖い。誰にも言っていないけれど、あんな経験をしてしまった精神的な傷はまだ治っていないのだ。
私が彼らの申し出を断らないという要素と、一人で帰れないという要素を含めば、いとも簡単に彼らは私の元へ及川さんを送り込むことができる。してやられたということだ。
「……他の方々は、良いんですか?岩泉さん達がまだいると思いますが」
私が校門の前にいるのだから、校門から出てきていないことは把握済みだ。もし裏門があってそこから帰宅されていたら私には分からないけれど、及川さんは気まずそうにしながら「いいの」と言った。
私がここで動かなければ及川さんとはこれっきりになるだろう。きっと明日、彼は私に話しかけてこないし、私も明日話しかけない。
だけれど、話したいことがあると言わんばかりの彼の瞳を見てしまえば、それを断るのは流石に意地が悪いと思えた。私は彼が苦手ではあるけれど、嫌いではないのだ。
校門から一歩踏み出した私を驚いた目で見て、それから安心したように、及川さんはふっと笑った。それは見たことの無い気の抜けた顔で、こちらも少し面食らってしまう。
しっかり車道側を歩いたり、わざと遅くしている私の歩幅に合わせてくれたりしているところは流石と言いたい。女の子に憧れられて好かれるところは、こういう些細な気遣いなんだろう。
「……あ、のさ」
ふと彼がピタリと止まった。影山くんに胸を貸したあの小さな公園の前だった。
「ごめん。昨日もこの間も、酷いこと言って、怒らせて」
彼は私に頭を下げて、真摯にそう言った。昨日の「似合ってない」発言と、影山くんへの対応で私を怒らせたことを、彼は今謝っていた。
「最初から、謝る為に呼んだんだ。五日も時間は要らなかったけど、い、一緒に居られるなら、一緒に居たかったから」
「……それは、私に対する嫌がらせとしてですか?」
「そんなこと、一回も考えたことない!」
ばっと上がった顔が真剣で少しだけ泣きそうだった。本心なんだな、とすぐ察せられた。
「私も、言いたいことがあります」
「……うん」
「冷たい態度をとってしまって、すみません」
おあいこ、ということにしてくれますか?
73人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ReG(プロフ) - なこさん» 閲覧して頂きありがとうございます。今後も読んでくだされば幸いです。 (2022年4月18日 14時) (レス) id: d40d8fc65b (このIDを非表示/違反報告)
なこ(プロフ) - とてもおもしろくてすいすい読めて読み応えがあります(^-^)/ 更新楽しみにしております(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)” (2022年4月2日 19時) (レス) @page22 id: 5054bb840e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ReG | 作成日時:2022年3月22日 15時