愛して恋して ≪アバンティーズ 短編集≫

わがまま　*エイジ ページ12

「泣いてんの？」

　さっきまで編集中で構ってくれなかった彼は笑って顔を上げた

　編集中は邪魔しちゃ駄目だ。そう思って静かに映画を見てたのに

「主人公がぁ…」

　そう言いながら涙を拭く私を見て、彼はむしろ笑いをこらえている

　なんで邪魔しない様にって感動ものの映画を借りたのだろうか

「邪魔してごめん…編集してていいよ…」

　相変わらず私のすることは少しだけ失敗するな
　
　少し反省、と頭の中で何度も謝罪を繰り返しながら私はテレビの電源を切る

「なんかさ、Aってオレのために頑張ってくれるよね」

　そんなことを言うえいちゃんを見て私は鼻をすする

「当たり前だよ。えいちゃんが忙しいのは邪魔しない」

「ほんとはさ？」

　と彼はまだ言葉を続ける

「何か我慢してるんじゃないかって時々思うんだよね」

「我慢…？」
　
　何かあるかな、なんて頭フル回転で考えるけど何もない

　一緒にいれば楽しい。編集中以外は沢山お喋りもしてくれる

「何も無理なんかしてな」

「我慢してるわけだよ！！だからね？」

「…は、はい」

　何故か言葉を遮る彼

　…あ、こんな光景、動画で見たことがある。自分の思う方向に話を向かわせようとしてるんだな

「…一個くらい、わがまま聞いてもいいけど」

　彼は赤い顔でパソコンを閉じた

　そんな姿さえ少し可愛いと思ってしまう

「…わがまま」

「そ」

　でも、彼はまだ編集中だ

　映画の感想なんて話したいところだけど

　もっと手短な、手短…な

「…キス」

「えっそれだけでいいの？」

　そんなん編集中にも出来るけど、と彼は目を丸くして驚く

　いいの、と念を押すと

　彼は笑っておでことおでこを合わせて、優しい声色で一言呟いた

「…Aは無欲だ」

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