7話 ページ8
お義母さんに空と海を任せ、出勤。
何が悲しくてマネージャー業を兼任してるんだか……。
……トウマが手伝ってくれたり、巳波がまとめてくれたりしてるけど。
今日は小鳥遊事務所のMEZZO"かIDOLiSH7、どちらかと収録だったはず……。
何の問題もなく、収録できたらいいのに。
問題しかなかった。
楽屋に荷物を置いて、喉が渇いたから飲み物を買おうと廊下に出て少し歩いた。
「……!……A……」
あの頃の私と同じ髪型をした、男性がいた。
千と何か話していた。
五年……。
音信不通になって、心配だった。
あの日のライブには私もいたから。
「……にい、さん……」
絞るように声を捻り出した。
生きていた。元気そうだった。よかった。
「……久し振り、兄さん」
「久し振り」
「げ、元気そうだね」
「Aも」
兄さんは、相変わらず優しそうだった。
……いや、兄さんは優しいんだ。優しすぎるくらい。
千は、私と兄さんを見守っている。
大好きな兄さんがいる。
泣きそうになるのを堪え、私は口を開く。
「……今日の収録、よろしくね。それじゃ」
「A……!」
千が私に腕を伸ばしたけど、兄さんがそれを止めた。
そうだ、それが正解だ。
「A、落ち着いてからでいい。落ち着いてから、ゆっくり話しなさい。……じゃ」
……私は落ち着いているのに。
……でも、兄さんが言うならそうなのかな。
でも、私は決めたから。
空と海を産むと決めた。
千がなんと言おうと、やり直さないって決めた。
兄さんを見つけても、あまり干渉しないって決めた。
あの人を愛している自分の証拠が欲しいから、そう決めた。
あの人と付き合っているのに、あなたを忘れることができなかったから。
あの人が愛してくれていたのに、どうしても千斗がこころのどこかにいたから。
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作者名:通りすがり | 作成日時:2019年7月8日 9時